天皇記『神功皇后の神がかり』
神功皇后の神がかり
ヤマトタケルの父、
天の声
とりあえず、平定はしといたから、あとの難しいお話はよろしくね!成務クン☆
成務天皇
・ ・ ・ イラッ。
成務は行政区画を決めて地方都市に区画を作ったり、その土地ごとの有力者をリーダーに任命したり、中央集権化を進めたり、なんだか難しそうなプロジェクトに精を出し、家庭も顧みずひたすら仕事にのめり込んだ。
しかし、縁の下の力持ち程、影は薄いものだ。彼に関するエピソードが全然残っていない。マジメに働いた天皇よりも天皇になれなかった英雄の方が断然、認知度が高いなんて、昔っから世の中は理不尽にできているらしい。
ちなみに、彼と双子のように育った親友の
成務は様々な業績を残したが、後継者になれる息子に恵まれず、ヤマトタケルの息子、
ここで初めて神武天皇から続いてきた直系の血が途絶えてしまったわけだが
国民代表
ヤマトタケルの息子なら全然OK!むしろ Come on!!
と誰も文句は言わなかった。
仲哀天皇
へへっ ・ ・ ・ 嬉しい。
天の声
中二クサイ話ばっかでゴメン。
仲哀天皇
そんなことない!父さん、かっこいい!!
天の声
ふふっ ・ ・ ・ 嬉しい♡
そのせいもあってか、彼はとってもイッちゃっている嫁をもらった。
神功皇后
よろしくってよっ!!
仲哀天皇
神功はいつも、かわいいなぁ〜♡
神功は
まぁ、要は血統書付きの完全なる『お嬢様』だった。
ある日、
しかし、ヤマトタケルが亡くなってから、徐々に治安が乱れてアンチ朝廷が増え、最近は無法地帯になっていたのだ。仲哀は、
仲哀天皇
父さんの通った道を辿れる ・ ・ ・ !!
という、どこか嬉しい気持ちもあり、準備には力が入った。
しかし『いざ出発!』という時になり馬に跨がると、仁王立ちの
神功皇后
・ ・ ・ ・ ・
仲哀天皇
あれ?えっと ・ ・ ・ 神功??どうかした?
神功皇后
あら、仲哀。これから旅立つと言うのに、わらわへの挨拶をお忘れではなくて?
神功は、日本人とは思えないゴージャスでヒラヒラした着物を身にまとい、『ヨーロッパ貴族か何かですか?』と問いたくなるような立て巻きロールだ。
武内宿禰
神功様!お待ちください!!
と言いながら、彼女の後ろから駆け寄って来たのは
彼は『タケシウチ』というよりは『タナカ』とかシンプルな名前の方が似合いそうなおじいちゃんで、『大臣』というよりは『執事』と言われた方がしっくりとくる。
武内宿禰
陛下っ!!申し訳ございません。武内がお止めしたのですが ・ ・ ・ ・ ・
仲哀天皇
あぁ、いいよ。いつものことだし ・ ・ ・
仲哀天皇
・ ・ ・ で、神功、何か用だった?
仲哀が質問を投げかけると、神功が馬の上の自分を見下すように顔をあげてのけぞる。
神功皇后
仲哀は、寂しがり屋さんでしょう?
だから、わらわが一緒に同行して差し上げますわっ!!
仲哀天皇
出た。神功のドヤ顔。
仲哀天皇
うぅん。遊びに行くんじゃ無いんだけどな ・ ・ ・ ・
彼女の後ろで武内がめっちゃ困った顔でオロオロしている。仲哀が更にその後ろに目をやると、荷物持ちの集団が大量に待ち構えているではないか。
仲哀天皇
・ ・ ・ これ、兵より数が多いんじゃ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仲哀天皇
駄目だ。この子、完全にくっついてくるつもりだ。
仲哀が困り笑いを浮かべて神功の顔色を伺う。
仲哀天皇
ちなみにコレ、断るって選択肢は ・ ・ ・ ・ ・ ・
神功皇后
当然、ございませんわっ!!
仲哀天皇
また出た。神功のドヤ顔。
仲哀天皇
・ ・ ・ ですよね。分かったよ。いや、分かってたよ。
仲哀天皇
でも、戦いになったらちゃんと後ろに下がってろよ?
仲哀からOKをもらった
神功皇后
仲哀、ご安心なさい?熊襲の敵なんて、わらわが一瞬にして蹴散らしてさしあげますわっ!
そして、得意げに微笑んだ。
仲哀天皇
はぁ ・ ・ ・
仲哀は大きくため息をつきつつも、彼女のこういうところが好きでもあった。
後ろでは
武内宿禰
申し訳ありません、申し訳ありません ・ ・ ・
と
仲哀天皇
うぅん、優秀な大臣だから本当は仕事して欲しいんだけど ・ ・ ・
仲哀天皇
執事キャラが完全に板についちゃったな。
こうして一行は筑紫(福岡)の
仲哀天皇
オレが琴を弾いて神功に神寄せをするから、武内は
神功皇后
よろしくってよ!
武内宿禰
はい。かしこまりました。
最近は刀剣男士を育てるのに忙しい
日が沈み暗がりの中で行われる儀式は、気を抜いたら闇に飲み込まれてしまいそうな緊張感がある。
しかし、仲哀が静かに琴を奏で始めると、場の空気が一気に神秘的なものに変わった。さすが小さいころから英才教育を受けているだけあって音色は美しく、どこか色気もある。
神功皇后
あぁ ・ ・ ・ 仲哀かっこいい ・ ・ ・ ・ ・ ・
神功はとろんとした視線で、微かな火の明かりに照らされる仲哀を見つめていた ・ ・ ・ ・ ・
が、不意に意識がぷつりと切れた。
急に部屋中に気持ち悪い奇声が響き渡り、居合わせた人間が一斉にビクッと恐怖におののく。
神功だ。
神功皇后
・ ・ ・ ・ ・
彼女の周りを人魂のような青白い光が纏い、縦巻きロールが不気味にフワフワと波打ち、顔は完全にイッちゃってる。正月番組にしか出て来ない怪げな霊媒師みたいだ。
その場にいた全員が神功を凝視した。彼女は、半分白目を向きながら誰かに操られているかのように口を開く。
神功皇后
仲哀 ・ ・ ・ 西の海の先には金銀に恵まれ、目にも輝く草々の広がる国がある。
仲哀天皇
えっ!?
神功皇后
汝にその国をくれてやろう ・ ・ ・ ・ ・ ・
仲哀天皇
なにこれ?どうしよう。超怖い。いつもの神功じゃない。コレが神様??なんか動きがカクカクしてるし、めっちゃ気持ち悪い。
仲哀天皇
ていうか、そもそも熊襲の平定が成功するかどうか聞きたくて呼んだのに。西の海の先にある国って、
俺、熊襲の平定に行きたいんだけど。
仲哀天皇
・ ・ ・ ・ ・ ・ 何か体よく断れないかな ・ ・ ・
仲哀天皇
西の海?向こうは高い丘を登って見ても国なんて見えないけどな。
仲哀天皇
ただ大きな海が広がってるだけじゃないか。
そして、
神功皇后
・ ・ ・ っっっ貴様、我らに逆らうか!!ならばこの国すら汝に治める資格は無い!!!
神功皇后
汝の辿る道は黄泉への道ただひとつぞっっ!!!!!
気持ち悪い顔の神功が"クワッ"と凄むと、恐怖を覚えた武内が慌てて声を上げる。
武内宿禰
駄目です、陛下っ!!琴を弾き続けてください!!!このままでは黄泉へと導かれてしまいますっ!!
仲哀天皇
でもオレは熊襲に ・ ・ ・
武内宿禰
陛下、早くっ!!
仲哀天皇
うぅん ・ ・ ・ ・ ・ ・
しかし、またすぐに音が消えてしまう。
武内宿禰
陛下っ!!しっかり弾き続けてくださいっ!!
武内はまた声を上げたが、仲哀からの返事は無い。
武内宿禰
陛下?
また呼びかけても返事が無い。不安に思い、武内は灯りを持って仲哀に近づく。
仲哀は琴を上に上半身を伏している様子だ。
恐る恐る仲哀の肩をさすると、ゴロンとそのまま床に倒れ込んでしまった。
仲哀天皇
・ ・ ・ ・ ・ ・
武内宿禰
陛下 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 亡くなられている ・ ・ ・
武内の微かな声に、その場は凍り付いた。
ヤバい。これマジなやつだ。
武内が慌てて神功の方を向くと、彼女もその場で倒れ込んでいるではないか。
武内宿禰
神功様っ!!
武内が駆け寄り、また肩をさする。しかし、彼女の方は寝起きのような表情でこちらを見上げた。
神功皇后
あら ・ ・ ・ 武内?わらわは気を失っていたのかしら。神託はどうでした?
武内宿禰
神功様!ご無事でよかった!!
武内の緊張感を異常に感じ、神功はパッと身体を起こす。さっきまで仲哀が琴を弾いていた床では、彼がころんと伏せている。
神功皇后
武内 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 仲哀はどうなさったの?
武内宿禰
神功様 ・ ・ ・ ・ 武内がついておりながら ・ ・ ・ 申し訳ございません ・ ・ ・ ・ ・
武内が状況の説明をしている間、その場に居合わせた家臣は恐怖のあまり悲鳴を上げることも、物音を立てることもできずに、ただしんと静まり返った。