天皇記『ホムチワケの初恋』
ホムチワケの初恋
ここから少しの間、主人公は垂仁の息子のホムチワケに移る。
ホムチワケは、父親に言われたとおり出雲の神殿を参拝した。
お供としてホムチワケに付いてきたアケタツと弟は、参拝の後、彼が喋り出すのを今か今かとソワソワして待ったが、特に変わった様子は無い。
アケタツ
まぁ、そんなすぐに話せるわけ無いか。
と思い、とりあえず斐伊川のほとりでランチを取ることにした。川下に不自然な形をした山が見える。ホムチワケはそれを見ながら不思議そうに首を傾げた。
ホムチワケ
なぁ ・ ・ ・ 何かあの川下の山、おかしくない?山っぽいけど、山じゃないみたい。もしかしてオオクニヌシを祀ってる祭場なのかな??
と、突然知らない声が響く。実際、その山は偽物で、ホムチワケに食事を楽しんでもらおうと思った出雲の神主が、わざわざ用意してくれたものだったのだが、アケタツたちにとってそんなことはどうでも良くなってしまった。
アケタツ
ホムチワケ様っ!?ホムチワケ様ですよね??今、喋ったの!!
ホムチワケ
え、そうだけど・・・
アケタツ
うぉー!!ホムチワケ様が喋ったぁぁぁぁあ!!!
アケタツは大喜びし、これを垂仁に伝えるため、早馬で弟と2人でさっさと先に大和へ帰ってしまう。
ホムチワケ
・ ・ ・ えっ?うそ?俺、置いてきぼりっ??
こうして一人残されたホムチワケは、仕方なく出雲に泊まることになった。
しかし、言葉を手に入れて急に色気付いたのか、その日のうちに出雲のヒナガヒメと結婚することになる。
トントン拍子で初夜を迎え、
ホムチワケ
まじ、言葉の力ぱねぇ。
と、彼はオオクニヌシに心から感謝をした。
ホムチワケ
まさかこんなすぐに、こんな可愛い子と結婚できるなんてなぁ~。
ホムチワケは幸せそうに、隣で寝ているヒナガヒメの頭を撫でる。
・ ・ ・ しかし、何か様子がおかしい。撫でた頭がツルツルしてなんだか冷たい。不思議に思い、ホムチワケは彼女の顔を覗き込んだ。
するとそこには、ヒナガヒメではなく巨大な蛇が横たわっているではないか。
ホムチワケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ うわぁっ!!!
ホムチワケの驚いた声で、その蛇はビクっと起き上がる。
ヒナガヒメ
ホムチワケ様っ!! ・ ・ ・ ごめんなさい、私 ・ ・ ・ ・ ・ ・
その蛇からヒナガヒメの声が流れてくる。なんと、彼女の正体は蛇神だったのだ。巨大な蛇はソロソロとホムチワケにに近づいてくる。
ホムチワケ
うわあぁぁぁーーー!!!こっち来んなああぁぁぁぁ!!!
ホムチワケは恐ろしくなって裸足のままそこから逃げ出した。
しかし、彼女も「待ってください!」と悲しい声を上げながら必死に追いかけてくる。ホムチワケは、海まで走ると手漕ぎ船に乗り込み全力で漕いだ。
ホムチワケ
この暗闇の中を船で逃げれば、きっと追って来れないっ!!
と気を抜いたのも束の間。ヒナガヒメも手漕ぎ船に乗り、神力で灯りを照らしながら付いてきたではないか。
さすが神。何でもできる。
ホムチワケ
ギャァァー!!!追ってきたぁぁー!!!
だが、追われる身としては余計に怖い。
ホムチワケ
嫌だ!!無理ぃぃ!!!怖い怖い怖すぎるっっ!!!
ホムチワケは半泣きで船を漕ぎまくり何とか陸地に着くと、その重い船を担いで山を駆け登った。もちろんヒナガヒメも付いてくる。
山道をひたすら走ると、道の先に小さな谷があった。
ホムチワケ
ここを越えれば ・ ・ ・ !!
ホムチワケは、頑張って担いできた船を谷の向こう側に渡し、橋のようにして、その上を全力疾走する。
ヒナガヒメ
ホムチワケ様っ!!行かないでくださいっ!!
ヒナガヒメの声だ。すぐ後ろまで来ている。ホムチワケが谷を渡り切り、後ろを振り返ると彼女と目が合った。
ホムチワケ
人の姿だとやっぱり可愛い ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
けど、やっぱ蛇は無理っっっ!!!!!
ホムチワケ
・ ・ ・ それで、俺、谷に架けた船を『ガンッッ!!』って蹴り上げて谷底に落としたんだ。
ホムチワケ
あとはもう振り返らずにひたすら大和に向かって走って帰ってきたから ・ ・ ・ もうフラフラで。
ホムチワケ
はぁ ・ ・ ・ もぉ、すんげぇ怖かった ・ ・ ・ ・ ・ ・
垂仁天皇
うんうん、そっかそっか、それはよかったね♥
垂仁は、出雲から帰って来たばかりの我が子の話をヘラヘラしながら嬉しそうに聞いていた。
ホムチワケ
はぁ??親父何言ってだよ。
ホムチワケ
マジすげー怖かったんだから ・ ・ ・ ・ ・ っっ!?
垂仁は、むぎゅーっとホムチワケに抱きつく。
垂仁天皇
本当、よかった ・ ・ ・ ・ ・ ・
言葉を手に入れ、急に大人びたホムチワケは、
ホムチワケ
・ ・ ・ ったく、止めてくださいよ。もう、ガキじゃないんだから。
と言って恥ずかしそうに笑った。
こうして、また主人公は垂仁へと戻る。
垂仁はホムチワケの無事を確認すると、すぐにアケタツの弟を出雲に送り、立派な大社を建させて、オオクニヌシを祀った。これが今も続いている出雲大社だ。
オオクニヌシ
垂仁くん ・ ・ ・ ・ !!!
オオクニヌシ
ありがとう!!コレはモテるっっ!!!!
オオクニヌシの希望通り、バブル臭漂う高層マンションのイメージで建設され、太古にも関わらず、96m(30階建てのマンションくらい。)もあったなんて記述も残っている。
しかしその大社は、何度も倒壊し、8世紀頃には48m(15階建てのマンションくらい。)の高さになっていたが、それでも11世紀から13世紀の間だけで11回も倒壊したらしい。
そんな長い時間の中で日本人は木造の限界を学び、最終的には現在の出雲大社のフォルムで収まっている。
そして、出雲大社が出てきたとなれば、そろそろ伊勢神宮にも登場してもらいたいところだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ が、しかし。
実はまだアマテラスの引っ越し先が決まっていなかった。
ヤマトヒメ
アマテラスさま?こちらなんてどうです??
アマテラス
うーん。そうねぇ。
・ ・ ・ なんか、ココ、蚊が多くない??
ヤマトヒメ
・ ・ ・ ・ ・ ・ イラッ。
垂仁の父、崇神天皇が神床でアマテラスにビンタされてから数十年。崇神天皇の娘、つまり垂仁の妹が、八咫鏡を持って散々日本全国を歩き回ったのだが、アマテラスのOKがなかなか出ず ・ ・ ・ ・ ・ ・
ついに妹はリタイヤし、現在は垂仁の娘の
ヤマトヒメ
今回もダメでした。
マジ、あのワガママ娘、なんとかしてください。
といった内容の伝言が届くたびに、垂仁は
垂仁天皇
本当ごめん。
と思ったが、倭姫に頑張ってもらう他ない。
最終的には現在の伊勢神宮がアマテラスの引越先となるのだが、そこに決まるまで、崇神天皇の神託から90年も掛かったそうだ。
とんでもないワガママ娘だ。
また、伊勢に決まるまで引越し先の候補地になった土地は、今でも元伊勢と呼ばれている。
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