天皇記『ワガママ娘の神託』
ワガママ娘の神託
疫病が収まり平和が戻ったある日、
崇神天皇
オオモノヌシが出てきたら、お礼でも言おう。
そんなことを思いながらまどろみかけたその時。
とイキナリ誰かに頬を叩かれる。
崇神天皇
痛てっ!!えっ!?なになに誰っ??
驚いて目を見開くと、可愛らしい娘がちょこんと正座をしていた。
???
・ ・ ・ ・ ・ ・ まったく。私がわざわざ出てきてあげてるのに。あんた、何ノンキに寝てんのよ。
そして、腕を組んで自分を見下してくる。声も少し高飛車な感じが可愛い。
崇神天皇
え ・ ・ ・ 君、誰??ココ、関係者以外立ち入り禁止なんだけど。
???
私は関係者なのっ!!あんた、私が誰かわからないわけ??
崇神天皇
・ ・ ・ いや、初対面じゃないか?だって、俺、可愛い子だったら覚えてられるもん。
崇神天皇
・ ・ ・ イタイ。
あれ?初対面じゃ無いのか?
崇神天皇
でも、心当たり無いんだけどな ・ ・ ・ ・ ・ ・
崇神天皇
・ ・ ・ え、これ、答えられるまで続けなきゃダメ?
崇神天皇
んー。思い出せないな。ってことは、もしかして君 ・ ・ ・ ・ ・ ・
???
そうよ!やっとわかったのね!!
崇神天皇
なんだ、部下がデリバリー頼んでくれたのか!!
???
は??頼むって何をよ。
崇神天皇
そっか。悪い、俺が直接頼んだわけじゃないんだよ。
???
だから、何を?
崇神天皇
あいつら、俺が最近疲れてるの知ってて ・ ・ ・ ・
ったく。神床に女連れ込めないの知ってるくせに馬鹿だなぁ。
???
???
崇神天皇
・ ・ ・ ・ ・ 給料上げてやろ。
???
?????
崇神天皇
よし。そうと分かれば早速 ・ ・ ・ ・ ・
崇神は、彼女の腕をそっと掴んで引き寄せる。
???
キャッ!!何すんのよっ!!!
崇神天皇
イタイっっ!!!
崇神天皇
痛いっ!!えっ!?なんでっっ!?!?痛い痛い痛いっ!!ねぇ!!!ちょっ!痛いってば!!
チェンジ!!!ちょっと!!誰かっ!!この子、チェンジ!!!!
???
っっばか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 崇神の馬鹿あぁぁ!!!
気付くと彼女は目いっぱいに、涙を浮かべていた。
崇神天皇
えっ?あ ・ ・ ・ ごめん ・ ・ ・ 。俺ら会ったことあったっけ?全然覚えて無くて ・ ・ ・ ・ ・ ・
???
ぐすっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ばか。
やっぱり可愛い。崇神は、袖で彼女の涙を拭いてやった。
崇神天皇
君、名前は?
???
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あまてらす。
崇神天皇
アマテラスちゃんか。確かに聞いたことあるな。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ あま ・ ・ ・ ・ ・ ・ てら ・ ・ ・
崇神天皇
アマテラスだとっっっ!!?
アマテラス
何よ ・ ・ ・ やっとわかったの?
崇神天皇
何でこんなところに!?
アマテラス
神床に神が出て何が悪いのよ。
崇神天皇
いや、そーいう意味じゃなくて ・ ・ ・ ・ ・ ・
アマテラス
葦原の中つ国の危機を救うための重要な任務があったから、わざわざ
彼女は今までに無くドヤ顔だ。崇神は慌てて居住まいを正した。
崇神天皇
そっ ・ ・ ・ ・ そうか。そりゃ、悪ふざけしてすまなかった。自分で役に立てることなら何でも言ってくれ。
アマテラス
こほん。 ・ ・ ・ では崇神、これは重大な使命なんだから、心して聞くのよ!
崇神天皇
あぁ。
崇神は、高天原の最高神からの使命に心構えする。
アマテラス
あのね、私、お引越しがしたいの。
崇神天皇
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ん?
アマテラス
今までは
崇神天皇
え ・ ・ ・ ・ ・ ・ それが重要な任務?
アマテラス
そうよ。これが重要な任務。折角だから綺麗なところが良いわね ・ ・ ・
アマテラス
神武が大和に来て以来、私、ココから出たことないから色んなところが見て見たいわ。いいでしょう?
崇神天皇
駄目だよ。アマテラス。
アマテラス
・ ・ ・ ・ ?
崇神天皇
君は可愛いんだ。一人暮らしなんて、お父さん心配だ。
崇神天皇
・ ・ ・ イタイ。でも、なんか、悪くない。
崇神が自分の新しい属性に気付いた一方で、アマテラスは真剣な表情に変わる。
アマテラス
あんた、オオモノヌシを祀り直したでしょ。
崇神天皇
えっ?あぁ。でも、お陰で疫病は収まっただろ?
アマテラス
そのせいでオオモノヌシの力が強まったから困ってるの!!私の力と相性が悪いから反発ちゃうのよ。
崇神天皇
え?神様って、そんな相性とかあんの??
アマテラス
あるわよ。特にオオモノヌシはアイツの分身だしね。
崇神天皇
アイツ??
アマテラス
とにかく、このまま放置をすると何が起こるかわかんないの。この前の疫病以上のことが起こったら困るでしょ?
崇神天皇
あー確かに、それはキツイ。
アマテラス
オオモノヌシの御神体は三輪山だから動かせないでしょ??八咫鏡なら持ってけるから、さっさと私の引越し先を見つけてちょうだい。
しかし、偉そうに命令してきた割に、アマテラスはどこか不安な表情を浮かべている。崇神は彼女の顔色を伺いながら質問を投げかけた。
崇神天皇
なるほどなぁ ・ ・ ・ でも、一人暮らし淋しくない?
アマテラス
別に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 淋しくないわよ。
アマテラスがプイっとソッポを向く。
崇神天皇
・ ・ ・ ・ ・ ・ 本当に?
アマテラス
本当だもん。
崇神天皇
うぅん ・ ・ ・ この子、すげー分かりやすいな。
崇神は、頭をポリポリ掻いた。
崇神天皇
よかったら、俺の娘も一緒に同行させようか?
アマテラス
っっ!!!
遠慮しがちに崇神が提案すると、さっきとはうって変わってパァーっと笑顔に変わる。
アマテラス
別に寂しくないけどねっ!そーいうことなら、そーすると良いわっっ!!!
今度はあからさまにご機嫌な様子だ。
崇神天皇
はは。こんなんがずっと崇めていたご先祖様だったとはな。
崇神は早速、娘のトヨスキイリビメにアマテラスを祀る場所を探すように指示を出した。
実はこの後、トヨスキイリビメはアマテラスのワガママに散々振り回されることになるのだが ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 長くなるので、とりあえずその話しは置いておこう。
こうしてアマテラスこと八咫鏡が祀られた場所が、伊勢神宮の起源となる。
疫病の一件が落ち着くと、崇神は各地の平定を始めた。欠史八代がなんもしなかったせいで、まだ東北地方がノータッチだったのだ。
崇神は伯父のオオビコに、軍を連れて北陸へ向かうよう指示を出した。オオビコは能力だけでなく、人としても信頼のおける人物だ。彼なら各地の平定もスムーズに行ってくれるだろう。
しかし、そう思って彼を送り出したのも束の間、オオビコと軍はすぐに帰って来てしまった。もちろん皆は無傷。しかも、何事か聞いても、
オオビコ
ここでは伝えられません。
と言って答えない。
崇神が構わずに問いただすとオオビコは武装も解かずに彼の腕を引っ張り、2人だけになれるところに移動した。
崇神天皇
っちょ、オイオイ ・ ・ ・ どうしたんだよオオビコ。黙ってちゃわかんねーよ。
オオビコは、入念に周囲を警戒し、他に人がいないことを確認すると、ようやく口を開いた。
オオビコ
申し訳ありません ・ ・ ・ この程度の事で戻るか迷ったのですが、どうしても胸騒ぎが収まらず。
崇神天皇
・ ・ ・ ・ ・ ・ だから何があったんだよ。
オオビコの話によると、軍が京都の辺りを進んでいると少女の歌声が聞こえたそうだ。最初は綺麗な歌声だと聞き惚れていたのだが、一行は、どうも歌詞がおかしいことに気付いた。
オオビコ
『崇神さん、崇神さん、あなたを殺そうとしている人が、屋敷の前でウロウロと、屋敷の後ろでウロウロと、コソコソ伺ってるのに知らないの?ねぇ、崇神さん。』
と。
崇神天皇
命を?俺の??
オオビコ
・ ・ ・ 私も不思議に思って彼女にどういう意味かと聞きました。しかし、彼女は、自分は鼻歌を歌っていただけで、意味など無いと。
崇神天皇
にしちゃ、意味がしっかりし過ぎているな。
オオビコ
はい。しかもその後すぐに彼女の姿がスッと消えてしまったのです。これは、何かのお告げでは無いかと思い、慌てて戻った次第です。
崇神天皇
なるほどな ・ ・ ・ うーん。そっかぁ。
オオビコ
何か心当たりでも?
崇神天皇
あぁ。実は俺、ずいぶん前からオオビコの兄さんの行動がオカシイ気がしてたんだよな。
オオビコ
腹違いのハニヤスビコのことですか?
崇神天皇
そうだ。オオビコの留守を狙ってコッチに向かってるかもしれない。軍を連れてハニヤスビコの住んでいる
オオビコ
はっ!
こうしてオオビコが
まさかオオビコの軍が来るとは思ってもいなかったようで、ハニヤスビコは慌てた様子で右往左往している。オオビコは戦いの前に清めた矢を打ち合う
オオビコ
兄上、軍を出したということは、覚悟決めたんだろ。そちらから忌矢を射ってくれ。
ハニヤスビコはぐっと顔を強ばらせると、オオビコ目掛けて
こちらも返しの忌矢を射ると、その矢は真っ直ぐにハニヤスビコの方へ飛んで、彼を殺してしまった。
ハニヤスビコがあっさりと死んでしまい、彼の軍は慌てて逃げ惑う。オオビコの軍が彼らを追うと敵は怯えきって、う●こを漏らし袴を汚してしまった。そのため、この地は
こうして少女のお告げのお陰で先手を打てたオオビコは敵を蹴散らし、崇神は事なきを得た。
その後は最初の目的通り、オオビコは着々と東北地方を平定して行った。途中で自分の息子と待ち合わせ、無事に会えた土地は
こうして崇神は東北地方も治め、ついに天下を統一すると「はつくにしらししみまきすめらみこと」と呼ばれるようになる。
すると、争いが激減し平和な世が訪れ、民はみるみるうちに豊かになっていった。
しかし、いつの時代も人ってのは平和になると欲が増えるものだ。
「この川はいつも氾濫するんだ。国で整備してくれ。」
「うちの前の井戸、夏になると水が出なくなるんですけど。なんとかならなくて?」
「ギャンブルで全部スっちまったんだ。生活保護受給させろや。」
などなど、朝廷には日々様々な要望が寄せられてきた。しかし、いくら国とは言え、全ての要望に応えることはできない。
そこで崇神は考えた。
崇神天皇
民から食べ物や布を納めさせて、その代わりに道路や川の整備など公共事業を行ってみたらどうかな?
と。
そう。今で言う税金だ。
このシステムなら、たくさんの人を雇って養える上に、様々な工事ができるようになる。崇神は早速、国民に納税をさせ、その租税で貯水池を作り水不足を解消させた。
その他にも数々の業績を残し、崇神は168才でこの世を去る。