天皇記『大和平定』
大和平定
オオクメとミチノオミの2人が御殿に向かって歩いていると、途中までエウカシが迎えに来ていた。
エウカシ
こんばんは、イワレビコ様のお付きの方ですよね?
ミチノオミ
・ ・ ・ !
一応、イワレビコの側近をしているミチノオミの方がオオクメの上司になるのだが、コミュ障で全く喋らないので、オオクメが代わりに話しかける。
オオクメ
あぁ、そうそう。ちょうどよかった。
エウカシ
あっ、はぁ・・・
オオクメ
悪いんだけど、俺らだけ先に案内してもらってもいいっすかね?旦那はまだ時間かかるってゆーから。
エウカシ
は ・ ・ ・ はいっ!!
オオクメはエウカシをリラックスさせようと、愛想良く話しかけたつもりだったが、彼の目尻には刺青が入っており眼光も鋭いので、よく警察署の前で張り出されてる凶悪犯の顔にしか見えない。
エウカシ
殺されるっ!?
と思ったエウカシだが、彼がこちらに槍を向けるそぶりはない。
オオクメ
なんか、気ぃ使わせちゃったみたいでスイマセンね。
エウカシ
いえっ、とんでもございません!わざわざご足労、ありがとうございます!!
エウカシ
いや、すごい睨まれてる気がしたけど、あの顔がニュートラルなのか ・ ・ ・
エウカシは恐怖で一瞬固まったが、平常心を取り戻すと新築の御殿まで道案内をした。
エウカシ
さっ!こちらでございます!!
オオクメ
へぇ~!これが、その御殿かぁ。立派っすね!!
エウカシ
ありがとうございます。
エウカシが上機嫌で案内をする。と言うのも、彼が仕掛けた罠は、一回一回しか動かない構造になっていたので、バラバラに来てくれた方が確実に敵を仕留められるのだ。
その罠がすでにバレているとはつゆ知らず、エウカシは2人に中に入るよう勧める。
御殿の目の前まで来ると、オオクメは本題に入った。
オオクメ
・ ・ ・ ところでさ、エウカシさんは、ウチの旦那が天つ神の御子だっつーコトは知ってますよね??
エウカシ
はい、もちろん存じております!
オオクメ
そ~。だからなのかね?あの人、ちょーっとズレてるとこあってさ ・ ・ ・ 。
オオクメ
変なとこでキレたりするんすよぉ~。
エウカシ
え ・ ・ ・ そうなんですか??
オオクメ
そうなのそうなの。
・ ・ ・ ・ ・ ・ だからさ。せっかくもてなしてくれるエウカシさんの為にも??嫌な思いして欲しくないからさ。
オオクメ
リハーサルってコトで、ウチの旦那をどーやってもてなすつもりなのか、見してもらえないかな?
エウカシ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ は?
オオクメ
ん??俺、何か難しいこと言った?
旦那をどーやってもてなすのか聞いただけっすよ??
オオクメ
ほら、エウカシさん。
オオクメ
先に入って、お手本を見せてくれよ。
エウカシ
・ ・ ・ ・ ・ ・ っ!!
先ほどまでのエウカシの笑顔が一瞬で消える。
オオクメはそのままの笑顔だったが、イッちゃってる殺人鬼にしか見えない。
オオクメ
ん?どうした?難しかねぇだろ。
オオクメ
この、
オオクメ
入り口の、
オオクメ
そこの、
オオクメ
板の間を踏むだけだ。
エウカシ
へ ・ ・ ・ え ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや ・ ・ ・
エウカシは頑なに動かない。
すると、ずっと黙って横からやりとりを聞いていたミチノオミが、無言で剣を抜いた。
ミチノオミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
エウカシ
ひっ ・ ・ ・ ・ ・ ・
危機感から逃げ出そうとすると、オオクメの槍がそれを防ぐ。
エウカシは、徐々に、後ろへ、後ろへ、と下がり、ついに御殿の入り口まであと一歩のところまで追い詰められてしまった。
エウカシ
あ ・ ・ ・ あの ・ ・ ・ 申し訳ありませんでした!!その ・ ・ ・ あ ・ ・ ・ ぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オオクメ
ん??何で謝るんすか?
オオクメ
俺ら、この場をくれたエウカシさんに感謝してんのに。
オオクメが槍の先でペチペチと楽しそうにエウカシの頬を叩く。
エウカシ
・ ・ ・ 嫌っ ・ ・ 許して ・ ・ ・ くださ ・ ・ ・ ・ ・ ・
エウカシの顔が恐怖で引きつる。
オオクメ
ほら ・ ・ ・ ・ ・
オオクメ
あと一歩っすよ?
オオクメは冷たく笑むと、エウカシの腹部を軽く槍でついた。
エウカシ
・ ・ ・ ・ ・ ・ っっ!!!
結局、エウカシは自分で作った罠で死んでしまった。
ミチノオミがその死体を無言で引き摺り出すと、バラバラに切り刻む。
ミチノオミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
野原がエウカシの血で一面真っ赤に染まってしまったので、そこは
オオクメ
うわー ・ ・ ・ 臭っせ ・ ・ ・ ・ ・
オオクメ
お前、ホントエグいよな ・ ・ ・ 俺、味方でよかったわぁ ・ ・ ・ ・
ミチノオミ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ミチノオミは無表情のまま軽く会釈した。
2人が帰ると、他の久米兵が喜んで迎えてくれた。
しかし、タダ酒を逃した久米兵には何処か元気が無い。そんな彼らを見たオトウカシが宴を開いて、たくさんのご馳走を用意してくれる。
オトウカシ
あの ・ ・ ・ これ、よかったら ・ ・ ・ ・ ・ ・
イワレビコ
わぁ!こんなにたくさん、ありがとうございますっ!!
イワレビコはオトウカシに礼を言い、あの戦いからずーっと休まずに付いて来てくれた兵士達をねぎらった。
すると、酔って上機嫌になった久米兵がこんな歌を詠い出す。
『宇陀で鳥を捕まえようと罠を張ってたら、なんとクジラがかかったぜっ!!
年増の嫁に「おかずが欲しい」って言われたら肉の少ないところをくれてやれっ!
若い嫁に「おかずが欲しい」って言われたら肉の多いところをあげちゃうけどねっ♡
わーい、ざまぁみろー!!やーい、ざまぁみろー!!』
と、まぁ、女子目線からするとクソみたいな歌だが、その日はムサい男同士で大いに盛り上がった。
こうして
そこには穴ぐらでサバイバル生活を送っている『
八咫烏
・ ・ ・ イワレビコ、あいつら穴ぐらで武装して、お前らが通る時に串刺しにする気だぜ?
人数は80人ってとこかな。
イワレビコ
そっか ・ ・ ・ ・ ・ ・ 穴に隠れられたら、こっちから攻めるのも難しいな。リアルモグラ叩きになっちまう。
八咫烏
ここを越えれば生駒山だけど、どうすんだ?迂回すんのか??
イワレビコ
いや ・ ・ ・ ・ ・ 今回は、こちらから罠にかけよう。
イワレビコ
オオクメ、料理が得意な久米兵を集めてくれ。なるべく多くだ。
オオクメ
ん?あぁ。わかった。
イワレビコ
八咫烏は、八十建に伝言を頼む。『友好の証に、豪勢な料理でもてなす』と伝えてくれ。
イワレビコ
もちろん土雲全員分、用意するとな。
八咫烏
おぅ。任せな。
作戦当日。忍坂の大室の周りには美味しそうな匂いが漂っていた。
いつもは武装している久米兵だが、今日はみんなコック姿で、腕まで袖まくりをしており、妙に爽やかだ。 ・ ・ ・ とは言っても、さすが兵士。
キャベツの千切りがめっちゃうまい。
予想以上に料理好きの男子が多かったので、オリーブオイルが足りなくなるというハプニングに見舞われたが、よくよく聞いてみるとサラダ油で全く問題無い内容だったのでそれで代用し、なんとか土雲全員分の料理を作り終えることができた。顔に似合わず盛り付けもやたらオシャレだ。
この光景を見たイワレビコはふとあることを思い出す。
イワレビコ
・ ・ ・ ・ ・ あ、そっか。いつもみんなで朝食 食べてるから、見てる番組が一緒なんだ。
イワレビコ
ありがとう!モコ●キッチン!!
余談だが国の平定後、久米兵の子孫の久米氏は兵だけではなく、多くの料理人も輩出し、代々朝廷に仕えることになる。
さて。普段サバイバル生活をしている土雲は、こんなに美味しそうな料理を見るのは初めてだった。警戒しながらも、穴の中から次々に土雲が出てくる。
イワレビコは、土雲と同じ人数の配膳係を用意して、一人づつ配るように指示を出す。すると最後に、親玉らしい人物が出てきた。
イワレビコ
こんにちは。あなたが八十建さんですね?
イワレビコが
八十建
・ ・ ・ そうだ。
イワレビコ
私は、カムヤマトイワレビコと申します。よろしくお願いします。
イワレビコ
・ ・ ・ しかし、話には聞いていましたが、この穴の中にこんな大勢いらっしゃったとは。
イワレビコ
さすが土雲ですね。中にもまだいるんでしょう?料理が足りるかな??
八十建
いや、これで全員だ。
イワレビコ
そうでしたか ・ ・ ・ ・
イワレビコ
それはよかった。
イワレビコ
みなさんにお会い出来るなんて光栄です。せっかくだ。友好の印に歌を詠みましょう。
八十建
歌?土雲にはそんな女々しい文化はない。
八十建
だが、いいだろう。聞いてやる。
イワレビコ
そうですか、ありがとうございます ・ ・ ・ では。
イワレビコ
『忍坂の大室にはたくさん土雲が住んでいるぅ〜♪♪
イワレビコ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ が、
イワレビコ
どんなに大勢住んでいようが、かっちょいい剣を持った勇ましい久米の兵が
あんたらをバンバン切り捨ててやるよ。』
八十建
はぁっ!?
それが歌かよっ??土雲を愚弄しやがって!ぶった斬ってやる!!
八十建がイワレビコの胸ぐらに掴みかかる。
さっきまで優しげな笑みを作っていたイワレビコには、すでに表情がない。そして、斜め後ろのコックに視線を送った。
イワレビコ
・ ・ ・ ・ ・ ・ 殺れ。
八十建の首が勢い良く飛ぶ。
斬ったのはミチノオミだ。今日は彼もコック姿をしている。
・ ・ ・ ゴトン。
一瞬の出来事に、土雲は現状を理解できずその場で固まる。久米兵はこれを合図に、服の下に忍ばせていた刀を取り出し、一斉に彼らを切り殺した。
そして、あっという間に土雲を制圧してしまったのだった。
この忍坂を越えればついにナガスネビコのいる生駒山だ。やっとここまで来たかと、一行は気が引き締まる。
イワレビコ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 行くぞ。イツセの仇を討つ。
久米兵は深く頷き、イワレビコの後に従った。