天皇記『市辺之忍歯王』
市辺之忍歯王
マヨワの乱から2ヶ月が経った。
しかし、
振り返れば、
安康が天皇になった後は、オオクサカが
なので、マヨワを倒したオオハツセが天皇に即位すれば、一区切り付きそうなところだが、彼はまだ成人したばかり。
こんなに若い王子が天皇になった例はまだ無い。
家臣
え!?次の天皇ってオシハ様じゃないんですか??
市邊之忍歯
はぁ??
オシハに仕えている家臣が前のめりになって、『あなたが天皇になってよ』と目で訴えてくる。オシハは履中天皇の息子で、安康天皇からも次の天皇にと名前が上がっていた人物だ。
しかし、どうやら本人は乗り気ではないらしい。彼は『オシハ』の名前の通り、押し出されたような八重歯を見せて、困ったように笑った。
市邊之忍歯
いやいや、やめてよ ・ ・ ・ ・ 。ハツセくんの耳に入ったら、オレ、殺されちゃうよ。
家臣
あっ、ごめんなさい ・ ・ ・ ・
市邊之忍歯
それに、安康くんの仇を打ったんだから、ハツセくんが天皇になるのは当然でしょう?
家臣
まぁ、確かにそうですけど。でもオオハツセ様は、やっと
市邊之忍歯
彼はちゃんとした成人男性だよ。この前お嫁さんも貰ったしね。
家臣
あぁ、カラヒメ様ですか ・ ・ ・ ・ 。あれも、父親を殺したばかりだっていうのに、よくできますよね。あの感覚、信じられないです。
市邊之忍歯
はは ・ ・ ・ ・ まぁ、そう言わないで。あれは、ツブラさんの希望もあってのことだし。
オシハは家臣をなだめたが、彼はまだ不服そうだ。
家臣
でも、オオハツセ様が天皇になったら、何するか分からなくて怖いです。すぐキレるし。すぐ人を殺すし。オシハ様が天皇になってくれればいいのに。
市邊之忍歯
いやいや、やめてよ。
市邊之忍歯
オレは、母親も
家臣
でも、皇女ではないですよね??
市邊之忍歯
皇女じゃなくても、皇族の母親の方が箔が付くもんだよ?
家臣
そんなの、関係ないですよ。だって、安康様は生前、『次の天皇はオシハ様』って言ってたじゃないですか。もう、『天皇の母親は皇族に限る』みたいな伝統も
市邊之忍歯
んー。
それが家臣の気遣いだと分かりつつも、これまでの伝統を大切にしてきたオシハは、苦笑いを浮かべる。
家臣
それより、年齢的にもスキル的にも人徳的にも、絶対にオシハ様の方が天皇になるべきお方だとだと思います!!
市邊之忍歯
ふっ!そうかな?
家臣
そうですよ!
市邊之忍歯
でも、もしここでオレが天皇になったとしても、『皇太子を息子のオケかヲケにするんじゃないか?』なんて疑われて、あの子たちまで命の危険が及んだら嫌だしなぁ。
家臣
そんな ・ ・ ・ ・
市邊之忍歯
だから、オレは隅っこで大人しくしてますよ。
押しの強い家臣の話を切ろうと、オシハは強めに自分の意見を述べた。
家臣
でも ・ ・ ・ ・ ・ それでも、オシハ様のこと応援してる人はたくさんいますから。何かあったら、いつでも私たちを頼ってくださいね!!
市邊之忍歯
そう。じゃあ、お気持ちだけ貰っておこうかな。
家臣
オシハ様のためだったら、私たちはなんでもやりますから!遠慮しないで、どんな事でも言ってくださいっ!!
市邊之忍歯
ははは ・ ・ ・ ・ んー。参ったなぁ。
オオハツセが天皇になることは決まったものの、『オシハが天皇になればいいのに』という意見は、未だに根強かった。
そんなある日。
大長谷命
狩りか。最近、行ってねぇな。
カラブクロ
最近のオオハツセ様は、とてもお忙しそうでしたからね。
大長谷命
まぁな。いい狩場でもありゃ、遠出してもいいんだが。
カラブクロ
ああ!少し遠くても良ければ、いい所がありますよ。
大長谷命
あ?
カラブクロ
大長谷命
ふぅん?
カラブクロ
まるで、ススキ原かよ!ってくらい、たくさん足が見えますし、それとも、枯れ松林かよっ!ってくらい、たくさん角も見える、スゴイところなんです!!
大長谷命
はっ!そりゃ、すげぇな。適当に射っても狩れそうじゃねぇか。
カラブクロ
ですです!
大長谷命
オシハでも誘ってみるか。
カラブクロ
えっ!?オシハ様ですか??
大長谷命
あぁ?悪ぃかよ。
カラブクロ
あ、いえっ!オシハ様も狩りがお好きと聞いたことがあるますので ・ ・ ・ ・ ・ ・ きっと喜ばれるなと思って ・ ・ ・
大長谷命
そうか。そりゃいい。
そこで、オオハツセはオシハを誘って
道中、オシハはオオハツセの反応を
市邊之忍歯
いやー。まさかハツセくんが、オレのことを誘ってくれるなんてね?驚いたよ。
大長谷命
あ??
市邊之忍歯
君にはてっきり、嫌われてるものかと思ってたから。
大長谷命
別に。ろくに話したことも無いのに、好きも嫌いも無いだろ。
市邊之忍歯
ふぅん。意外と冷静なご意見。
大長谷命
それより、外野が
市邊之忍歯
なるほどねぇ。
大長谷命
人間関係の
市邊之忍歯
へぇ。そーゆうの、ちゃんと考えてるんだ。
市邊之忍歯
君に誘われた時には、ついにオレも殺されちゃうかと思って覚悟したけど。無闇に殺してるわけじゃないんだね。
大長谷命
フン!別に。無害のヤツを殺す気は無い。
市邊之忍歯
そう。それは、よかった。
市邊之忍歯
どうやら、この狩りが終わった後は、オレも無事に家に帰れるみたいだ。
大長谷命
だが、狩りは本気だ。アンタも手を抜くな。手加減したら殺す。
市邊之忍歯
ふっ!それなら大丈夫。
市邊之忍歯
オレも負ける気ないから。
大長谷命
そりゃ、いい。
オオハツセは終始ご機嫌で、一行は和やかな雰囲気のままカヤ野に着いた。
市邊之忍歯
だいぶ遅くなっちゃったね。獣たちは朝が早いから、今日はさっさと寝ようか。
大長谷命
だな。
こうして、2人はそれぞれに仮宮を作って泊まり、翌日狩りをすることになった。