天皇記『ヤマトタケル』
ヤマトタケル
ヤマトオグナは早速、平定の旅に出かけることになった。
倭姫は、垂仁の娘で、景行の妹、そしてヤマトオグナにとっては叔母にあたる。彼女は、アマテラスに散々引っ越し先探しを付き合わされた後、やっとOKの出た伊勢で、
倭姫は久しぶりに尋ねてきた甥っ子を心から歓迎した。
姪も甥もみんな可愛かったが、ヤマトオグナのことはその中でも特に可愛がっていた。
ヤマトヒメ
オグナ~!よく来たねっ。上がっていきな!!
倭姫は玄関まで彼を出迎え頭をクシャクシャと撫でた。恥ずかしそうに笑う甥っ子はめっちゃ可愛い。しかし、返事はつれなかった。
ヤマトオグナ
いえ、ごめんなさい叔母さん。実はゆっくりしていられなくて ・ ・ ・ 。今から熊襲に行かなくちゃなんです。
ヤマトヒメ
はぁっ!?熊襲っ??なんでまたそんな遠くまで??
ヤマトオグナ
父上の命令で、熊襲の平定に行くんですよ。
ヤマトヒメ
そうなの?なんか大変そうね。 ・ ・ ・ でも、そしたら、何で寄ってくれたの??お小遣い??
ヤマトオグナ
んー、実はお願いがあって。
ヤマトヒメ
うんうん、何でも言って??おばちゃん、オグナの為なら何でもあげちゃうっ!!
ヤマトオグナ
えっと、叔母さんが若い頃に着てて、もう着れなくなっちゃった着物とか、もしあったらお借りしたくて。
ヤマトヒメ
え ・ ・ ・ ・ ・ ・ 女物の??
ヤマトオグナ
はいっ。ちょっと、熊襲で使う用があるんです。
ヤマトヒメ
そう ・ ・ ・ それ、何に使うのかは、あんまり深くは聞かない方がいいのかしら。
ヤマトオグナ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ダメですか?
可愛い甥っ子の上目遣いに、倭姫のハートがズキュン♡と響く。
ヤマトヒメ
うぅん、大丈夫っ!!オグナは色白だし顔も可愛いから似合うと思うよ!!
そしたら、ついでにメイク道具も貸してあげようっ!!
ヤマトオグナ
本当っ!?わぁい!ありがとうございますっ!!
こうしてヤマトオグナは、倭姫から貸してもらった女物の着物と短刀を忍ばせ、熊襲へと向かった。
ヤマトオグナは
何か忍び込む良いタイミングはないものかと様子を伺っていると、『近々、塀の中で新築の家が完成するので、お披露目の宴会が行われる』との会話を兵から盗み聞きすることができた。絶好のチャンスだ。ヤマトオグナは近くに潜み、その日を待つことにした。
そして、宴会当日。ヤマトオグナは川で旅の汚れを落とし、髪を洗いクシで綺麗に解くと、女の子のように垂らした。この日の気合は十分だ。彼はムダ毛の処理をすると、倭姫から借りた可愛いピンクの着物を着込み、ナチュラルメイクを施した。 とても初女装のクオリティとは思えない、そこらへんの女子より全然可愛い仕上がりとなる。
ヤマトオグナ
ふふっ!完成〜♪♪
その夜、ヤマトオグナは宴会に呼ばれたコンパニオンに紛れて会場に入り込んだ。誰も男が混ざったことに気付かない。それどころか「上玉が来た」と会場が密かに沸き立つ。宴会は既に始まっていて、クマソタケル兄弟は
クマソタケル・兄
新居で飲む酒は格別に美味い!
とかなんとか言って、大いに盛り上がっている。
ヤマトオグナは、周りのコンパニオン同様、酒の入ったトックリを片手に各席を周りつつ、クマソタケル兄弟に徐々に近付いて行った。
すると、彼に気付いた兄弟が自分を横目で見ながらコソコソ話を始める。
ヤマトオグナ
あれれ。バレちゃったかな ・ ・ ・ ・ ・
と思いつつも、試しに兄らしき人物に向かって軽く微笑み、ウィンクを送ってみた。
そんな彼を見た兄はニヤリと笑い、声を上げる。
クマソタケル・兄
オイ!そこの ・ ・ ・ ピンクの着物の、お前!!
席中のコンパニオンが誰だ誰だとキョロキョロする。
コンパニオン
・ ・ ・ ・ ・ ・ 私ですか?
ヤマトオグナの隣にいた濃いピンクの着物の女性が答える。
クマソタケル・兄
ちげーよ。隣の可愛い方だ。
ヤマトオグナが、会場中の視線を浴びる。少し気まずそうに、人差し指を自分の方に向け、
ヤマトオグナ
私?
という表情で首を傾げて見せた。
クマソタケル・兄
そうだ。隣で酒を次げ。
どうやら、気に入られたようだ。ヤマトオグナは申し訳なさそうに、隣の女性にちょこっと頭を下げてから、そろそろとクマソタケル兄の隣に座った。そして酒を次ぐと、兄は不思議そうに彼を見る。
クマソタケル・兄
なぜ、喋らない。
ヤマトオグナはできれば喋りたくなかった。つい数年前に声変わりを終えてしまったので、声だけは誤魔化せない。そこで彼は伏し目がちに、顔を赤らめながら答えた。
ヤマトオグナ
・ ・ ・ みんなに ・ ・ ・ 男の人っぽいってからかわれるから ・ ・ ・ ・ ・ ・
クマソタケル兄弟は完全にヤマトオグナに心を奪われる。
クマソタケル・弟
兄者!ズルイ!!真ん中!!真ん中に座らして!!
という弟の主張を兄は仕方なく聞き入れ、ヤマトオグナはこれから殺す2人に囲まれて酒を次ぐことになった。
ヤマトオグナ
わぁ!お酒、強いんですねぇ~!
とか
ヤマトオグナ
すごぉ~い!イッキ、かっこいぃ~!!
とか、適当にキャバ嬢が言いそうなセリフを並べていると、クマソタケル兄弟は嬉しそうにガブガブ酒を飲み、あっという間にベロンベロンに酔ってしまった。
ボディータッチも徐々に増え、そろそろウザいな。と思ったヤマトオグナは、お尻に手を出してきたクマソタケル兄の手を払いのけ胸ぐらに掴みかかった。セクハラに怒ったのかと勘違いした兄は慌てて謝る。
クマソタケル・兄
ハッハ!すまん、ついだつい!!
ヤマトオグナ
ふふっ、"つい"でも痴漢は犯罪なんです。
ヤマトオグナはにっこり笑って言葉を続ける。
ヤマトオグナ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ だから、死んでください。
クマソタケル・兄
は??
クマソタケル兄は、状況が飲み込めなかった。目の前にいる清純派の娘の手には短刀が握られ、その刃の部分は自分の胸を貫いている。しかし、あまりにもすんなり刃が通ってしまったので、まだ痛みすら感じていなかった。
ヤマトオグナが、そのまま彼の胸を切り裂くと、辺りにビシャッッと血が飛び散った。ピンクの可愛らしい着物があっという間に真っ赤に染まってしまう。
ヤマトオグナ
・ ・ ・ ・ ・ あとは ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 弟の方 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ヤマトオグナは今しがた人を殺したとは思えない程の冷静な表情で弟に目を向けた。
その瞬間、時間の止まっていたかのような会場が一気にパニック状態になる。
クマソタケル弟も、声にならない声を上げながら逃げ出した。しかし、部屋の階段下ですぐに追いつかれ、ヤマトオグナに背中を掴まれるとケツをグサリと刺されてしまう。
・ ・ ・ 他にも刺せる場所はあったろうに。可哀想。
さっさと片を付けようと思ったヤマトオグナだが、クマソタケル弟が待ったをかけた。
クマソタケル・弟
ちょっ待っ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !!
ヤマトオグナ
嫌です。
クマソタケル・弟
いやいやっ!だからっ!!剣、動かさないでっ!!うごかさないでっっ!!!まだ言いたいことが!!
ヤマトオグナ
うるさい人だな ・ ・ ・ ・ ・
クマソタケル・弟
せめて息のあるうちに誰に殺されるかくらい教えてくれっ!!
ヤマトオグナ
え?ん~、えっと ・ ・ ・ ボクは大和から来ました。景行天皇の息子で、ヤマトオグナっていいます。
ヤマトオグナ
父上からクマソタケル兄弟はボクらに刃向かう無礼な奴だから、殺せって言われたのでおじゃましました。
クマソタケル・弟
は?朝廷からっ? ・ ・ ・ そうだったか。
ヤマトオグナ
じゃ。
クマソタケル・弟
ちょっ!!待っっっ!!!!
ヤマトオグナ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ まだ何か?
クマソタケル・弟
だから、もうちょいだからっ!!聞いてくれってば!!!
ヤマトオグナ
うぅん ・ ・ ・ わかりましたよ。簡潔に述べてください。
クマソタケル・弟
あぁ、感謝するよ。
実のところ、ここらでは ・ ・ ・ ・ ・ いや、九州全土で俺らより強い奴なんていないんだ ・ ・ ・
だから、俺ら兄弟は「クマソタケル」を名乗っていた。タケルって強い奴って意味だろ?最強のクマソ兄弟にふさわしいと思って。
でも大和には俺らより強い人間がいたんだなって ・ ・ ・ ・ ・ ・
ヤマトオグナ
はぁ。
えっと ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ それ、長いですか?
クマソタケル・弟
いやっ!!もうちょい!!!すぐ終わるっ!!!すぐ終わるからっっ!!!
ヤマトオグナ
はぁ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ で?
クマソタケル・弟
それでっ ・ ・ ・ この"タケル"の名前を献上する。君もいつまでも"少年"なんて名乗る訳じゃないだろ?
ほら、若いうちに"少年"なんて名前付けられると、後で周りが気まずい思いをすることになるし ・ ・ ・
だから、これからは"ヤマトタケル"と名乗るといい。
ヤマトオグナ
ヤマトタケル ・ ・ ・ うん、イイ名前ですね。ありがとうございます。
ヤマトオグナ
・ ・ ・ それで ・ ・ ・ ・
ヤマトオグナ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 終わり?
クマソタケル・弟
っっ ・ ・ ・ あぁ。終わりだ。
ヤマトオグナ
そうですか。じゃ。
『ヤマトオグナ』改め、『ヤマトタケル』は何の躊躇もなくザクリと熟したウリのように彼のケツを切り裂いた。
・ ・ ・ 話を聞いている限りでは、いい人っぽかったのに、やっぱり可哀想。
しかし、景行には平定を頼まれている。会場には腰を抜かして動けなくなっている人が何人か残っていたので、ヤマトタケルは彼らに向けて声を掛けた。
ヤマトタケル
・ ・ ・ という訳で、父上に逆らった熊襲兄弟は殺しちゃったんですけど、ココって他にも反抗的な人いるんですか?
彼らは揃って首を横に振る。
ヤマトタケル
そうですか。そしたら、これからはあんまり反抗的な態度、取らないでくださいね。大和からここまで結構あるから、来るの大変なんですよ。よろしくお願いします。
彼らは揃って首を縦に振る。
ヤマトタケルは、にっこり笑うと満足そうにその場を後にした。
さて、もうとっくにお気づきのことと思うが、彼こそが日本の誇る伝説の英雄『ヤマトタケル』だ。この中二病臭漂う、日本史初の女装男子がまさかの英雄。どうやら千何百年以上も前から日本人の萌えポイントは変わっていないらないらしい。
こうしてヤマトタケルの伝説は幕を開ける。