天皇記『オオヤマモリの謀反』

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オオヤマモリの謀反

オオヤマモリの謀反

応神の死後、彼の遺言でそのまま末っ子のウジノワキが天皇に ・ ・ ・ なるかと思いきや、長男のオオヤマモリが反対し、弟を殺す計画を立てていた。

オオヤマモリの動きを警戒して、監視していたオオサザキはすぐにこのことをウジノワキに知らせる。

ウジノワキ

ウジノワキ

えっ、オオヤマモリ兄さんが、僕を殺しにっ!?

オオサザキ

オオサザキ

せやねん ・ ・ ・ 思いとどまってくれたらえぇんやけど。

ウジノワキ

ウジノワキ

そうですか ・ ・ ・

オオサザキ

オオサザキ

オレの兵を送ろか?

ウジノワキ

ウジノワキ

いえ、大丈夫です。考えがあるので。

オオサザキ

オオサザキ

さよか??

ウジノワキ

ウジノワキ

ただ ・ ・ ・ ちょっとだけ、お手伝いしていただけますか?

オオサザキ

オオサザキ

おぅ、まかせろ!!直でいてまう??

ウジノワキ

ウジノワキ

いや、いてまわないです。

ウジノワキはオオヤマモリに対して、罠を張ることにした。

オオサザキと連携を取り「明日、ウジノワキが宇治川に行くらしい。」という情報を人づてにオオヤマモリへと流す。厳重な警備の皇居の外に出てくれれば、ウジノワキの命を狙う絶好のチャンスだ。

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そして翌日。ウジノワキは宇治川のほとりに弓を持たせた兵をひっそりと潜ませた。

川の対岸では、よく大河ドラマで戦国武将が陣を構えるシーンに出てくる、大きな布を張った即席の陣を作り、背格好が似ている家来に豪華な着物を着せて、真ん中に目立つように座らせる。

ウジノワキ

ウジノワキ

うーん、そうだな。

あぐらかいて、もうちょい、貴族っぽく偉そうに仰け反ってもらえます?

偽ウジノワキ

偽ウジノワキ

はっっはぃぃ!!!

そして、その周りを何十人もの家来を行き来させると、本当に皇子のように見えた。

ウジノワキ

ウジノワキ

うん、僕よりよっぽど天皇っぽい!

偽ウジノワキ

偽ウジノワキ

はぁぁぁ!畏れ多いです ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

あぁ、遠慮しなくていいから。もうちょい、胸張って仰け反れます?

偽ウジノワキ

偽ウジノワキ

はぃぃ ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

よし。あとはココがよく見える対岸に、僕がスタンバイっと。

ウジノワキが準備をしていると、道ゆく人々もその家来の方が皇子なのかと勘違いをし、次々に挨拶をしながら通って行った。

さらに、彼に気付いたおばあちゃんが、こちらに寄ってくると、手を合わせて「ありがたや〜ありがたや〜」と拝み出す。

ウジノワキ

ウジノワキ

ふふっ!完璧。

この現場に満足したウジノワキは、自分はみすぼらしい船頭の格好に着替えて対岸に渡った。

小さい頃からよく池でボートを漕いで遊んでいたので、舟を漕ぐのは得意だ。そして彼が漕ぐ舟の底には、カヅラの根っこを叩いて潰してヌルヌルの汁を出し、それを塗って足が滑りやすいようにしておいた。

これで準備は整った。

しばらくすると、オオヤマモリが数名のお供を連れてやって来た。ウジノワキはスゲで編んだ大きめの笠を頭に深く被り、船着場で客待ちを装う。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

あれだ、いたぞ。

オオヤマモリが、対岸に見える偽のウジノワキを指した。彼はポンチョのような服を上に着ているが、動く度にカチャカチャと鎧の擦れる音が聞こえてくる。

ウジノワキ

ウジノワキ

・ ・ ・ ・ ・ ・

オオヤマモリ

オオヤマモリ

俺が先に渡って、奴の動向を確かめる。合図をしたら、お前らも対岸に渡ってこい。

そう指示した先を確認すると、たくさんの兵が潜んでいるのが見えた。ウジノワキの心臓が、悲しみと緊張でぐっと締め付けられる。

ウジノワキ

ウジノワキ

オオヤマモリ兄さん ・ ・ ・ 昔はよく遊んでくれたのにな。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

オィ!そこの船頭!!

ウジノワキ

ウジノワキ

はぃっ!?

オオヤマモリ

オオヤマモリ

船を出せ。

ウジノワキ

ウジノワキ

へぃ ・ ・ ・ こちらへどうぞ。

ウジノワキ

ウジノワキ

足元、滑るんで気をつけてくださいね?

ウジノワキは、素知らぬ顔で兄と数名の兵を乗せて船を出した。ゆっくりと進み、自分の兵を潜ませている場所まで向かう。

だんだん目的の場所に近づくと、弓を持った人影がちらほら動いているのがわかった。

しかし弓の射程距離まではもう少しある。

ウジノワキ

ウジノワキ

バレませんように ・ ・ ・

と、船を漕ぐウジノワキの手には緊張で汗が滲む。すると、突然オオヤマモリが声をかけて来た。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

オイ、船頭。

ウジノワキ

ウジノワキ

へっ!?何ですかっっ!?

ウジノワキはビクッと驚き、危うくかいを落としそうになる。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

・ ・ ・ あの山に、気性の荒いイノシシがいると聞いた。我らで討ち取れると思うか?

ウジノワキ

ウジノワキ

え?あぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イノシシですか。

ウジノワキ

ウジノワキ

びっくりした ・ ・ ・ でも ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

それは ・ ・ ・ ・ ・ ・ 無理でしょうね。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

・ ・ ・ ・ ・ ・ 何故だ?

ウジノワキ

ウジノワキ

今までも、討ち取ろうとする人が何人もいたんですけど、誰もできなかってんですよ。

ウジノワキ

ウジノワキ

だから ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

オオヤマモリ

オオヤマモリ

??

ウジノワキ

ウジノワキ

もうちょい ・ ・ ・

オオヤマモリ

オオヤマモリ

・ ・ ・ ・ ・ ・ なんだ?

ウジノワキ

ウジノワキ

あぁ ・ ・ ・ だから ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

あなたにも、無理だと思います。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

はぁっ!?

ウジノワキがココという場所で、思いっきり船を揺らす。

バシャン!

オオヤマモリと兵はヌルヌルした舟底に足を滑らせ、大きな音を立てて川の中に落ちた。オオヤマモリはバシャバシャと、川に浮きながら歌を詠い出す。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

ちはやぶる

勢いが強いこの宇治川の船頭!

オオヤマモリ

オオヤマモリ

おぃ!お前のその素早い動きは、さぞ仕事のできる奴なんだろう??

オオヤマモリ

オオヤマモリ

さっさとコッチに来て俺を助けるんだっ!!

ウジノワキは、今にも沈みそうになりながら苦しみもがくオオヤマモリの姿を見下しながら、笠を目線の高さまで押し上げる。

ウジノワキ

ウジノワキ

だから ・ ・ ・ 無理だって言ったんです。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

はぁっ!?

ウジノワキ

ウジノワキ

オオヤマモリ兄さんには、僕を狩ることはできませんよ。

そして、悲しそうに視線を落とした。

オオヤマモリ

オオヤマモリ

ウジノワキっ ・ ・ ・ ・

宇治川のほとりに潜んでいたウジノワキの兵が一斉に立ち上がり、オオヤマモリが岸に上がって来ないように弓を構える。しかし、矢を放つまでもなく、オオヤマモリは川に流され、やがて沈んでしまった。

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しばらくして、オオヤマモリが沈んだ辺りをウジノワキの兵が鉤でつついて探ると、彼の鎧に先がかかり『カワラッ』と音が鳴った。そこで、ここは河原の崎と呼ばれるようになる。

兄の遺体が引き上げられる様子を見ながら、ウジノワキは静かに歌を詠った。

ウジノワキ

ウジノワキ

ちはやひと

兄さんはいつも勢いのある、芯の強い人でしたよね。

ウジノワキ

ウジノワキ

この宇治川のほとりには、兄さんとみんなで一緒に見た思い出のマユミの木が立っているんです。

ウジノワキ

ウジノワキ

覚えていますか?

あの時は僕もまだ小さくて、こんな日が来るなんて思ってもみなかったな。

ウジノワキ

ウジノワキ

あのマユミの木を材料にして弓を作ったら、きっと良いものができるだろうから、

ウジノワキ

ウジノワキ

『よし、切ってやろう』って思ってもみたけれど、『いざ、取ってやろう』って思ってもみたけれど、

ウジノワキ

ウジノワキ

その根を見れば父上のことを思い出しちゃうし、その枝を見れば兄さんが僕のお嫁さんにくれた妹のことを思い出しちゃうし、

ウジノワキ

ウジノワキ

どうしても兄さんのことを考えて辛くなるから ・ ・ ・ 兄さんのことを想って悲しくなるから ・ ・ ・ ・

ウジノワキ

ウジノワキ

だから ・ ・ ・ ・ ・ あのマユミの木は切らないで戻ることにします。

詠い終わったウジノワキの顔を、心配そうにオオサザキが覗き込む。

オオサザキ

オオサザキ

・ ・ ・ ウジィ、大丈夫か?しんどない??

ウジノワキ

ウジノワキ

サザキ兄 ・ ・ ・ 来てくれてたんだ。

ウジノワキ

ウジノワキ

大丈夫です。

オオサザキ

オオサザキ

ほな ・ ・ ・ 後は任せてオレらは帰ろ?

ウジノワキ

ウジノワキ

えぇ。

その後、オオヤマモリは奈良山に埋葬された。

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こうして、兄の謀反の一件が落ち着き、今度こそウジノワキが無事に皇位を継ぐ ・ ・ ・ ・ かと思いきや。

今度はウジノワキが

ウジノワキ

ウジノワキ

オオヤマモリ兄さんに勝てたのは、サザキ兄のお陰です。

と言い出し、皇位を譲ろうとした。

しかし、オオサザキはオオサザキで父親との約束がある。

オオサザキ

オオサザキ

そらないわ。何のために、むっちゃ嫌な思いして兄ちゃん殺したんや。お前が継がな意味ないやろ。

と反論した。

ウジノワキ

ウジノワキ

いや、サザキ兄が継ぐべきです。

オオサザキ

オオサザキ

あほか。オレは親父にお前に皇位を継がせるよう頼まれとるんや。

ウジノワキ

ウジノワキ

わぁー、さすがサザキ兄!父上に信頼されてたんですね!

ウジノワキ

ウジノワキ

よっ!!天皇の器っ!!

オオサザキ

オオサザキ

知るかい!

オレのでっかい器は全国のワガママガールズの想いを叶えるためにあんねんっっ!!!

と、収拾がつかなかった。

そんなある日、「謀反が収まり、新たな天皇が決まった」という噂を聞いた海女達がお祝いのために大量の海産物を朝廷に献上しに来た。

オオサザキ

オオサザキ

ウジノワキ。お前に献上された魚や。

ウジノワキ

ウジノワキ

いえ、違います。サザキ天皇サマサマに献上された魚です。

オオサザキ

オオサザキ

あほか。オレは親父にお前が飯を残さず食うよう見張れて言われとんのや。早よ食わんか。

ウジノワキ

ウジノワキ

そんな話、初めての聞きましたよ。僕は魚好きなんで、見張る必要は無いと思いますけど?

オオサザキ

オオサザキ

そりゃええ。オレはちっこい骨があるやつが大嫌いなんや。やっぱし、お前が食うべきやな。

ウジノワキ

ウジノワキ

あっ!サザキ兄、ウニ好きでしたよね??こんなにたくさんある!!

ウジノワキ

ウジノワキ

これ全部、サザキ兄のために採ってきてくれたんだ。

流石サザキ兄は国民から愛されてますねっ!!

オオサザキ

オオサザキ

じゃかあしいわ!!

オレは不特定多数の乳デカ美人に愛されてりゃ、国民からどない思われようが、どーでもええねんっっ!!

と、ラチがあかず、どちらも貢物を受け取らない。

しかもオオサザキが難波の家に帰ってしまい、海人達は、宇治にあるウジノワキの家と、難波のオオサザキの家を何度も行き来させられるハメになった。

結局2人とも受け取ってくれなかったので、大量の海産物を腐らせてしまう。海女達は疲れ果てて、泣きながらそれらを捨てたそうだ。

この話から「海人は自分で持ってるから泣く」という、ことわざが生まれた。普通は物が無くて泣くのに、物がありすぎて泣きたくなった時に使うらしい。

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それからも、ずーっと2人は譲らずに、天皇不在の期間が3年も続いた。

しかし、体の弱かったウジノワキが早くに亡くなってしまったので、オオサザキは悲しみながらも最終的には皇位を継ぐことになる。

仁徳天皇にんとくてんのうの誕生だ。

仁徳天皇

仁徳天皇

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

そう。彼こそが、学校の教科書に載ってたあのデッカイ「前方後円墳」の「中の人」だ。

彼の即位によって古事記の中巻はは締めくくられ、仁徳天皇の時勢から下巻がはじまることになる。

応神天皇系図

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