天皇記『木梨之軽王と軽大郎女』

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木梨之軽王と軽大郎女

木梨之軽王と軽大郎女

允恭いんぎょう天皇が亡くなると、長男のキナシが皇位を継ぐことになった。キナシはロマンチストの熱い青年で、国民からもしたわれていたため、允恭は安心し切っていた。

允恭天皇

允恭天皇

あとはよろしくー

しかし允恭が亡くなってすぐ、キナシがまだ皇位にも就く前に、朝廷内では彼が歌ったとされる、とんでもない歌が拡散される。

木梨之軽王

木梨之軽王

高い山の稲田へ水を引くため、地下を這わせる木の管がある。人目に触れず隠れているこの様子は、まるであの管みたいだ。

木梨之軽王

木梨之軽王

こうして密かに愛を伝えにきた私の妹。そして密かに泣いている私の妻。でももう泣かないで。

木梨之軽王

木梨之軽王

君の透き通るその肌に、今夜こそは容易く触れてみせるから。

それと、もうひとつ。

木梨之軽王

木梨之軽王

笹の葉にあられがタシダシと打ち付ける音のように、君を引き寄せ体を重ね合ったら、人は私から離れて行くのだろうね。

木梨之軽王

木梨之軽王

君を愛おしく思って抱き合ってしまったら。毛布に包まれ、乱れに乱れて抱き合ってしまったら。

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ エロい。

 

 

履中りちゅうのアホみたいな歌とは比べ物にならないくらいエロい。

 

まさかこれは、キナシの青春時代の恥ずかしいポエムが朝廷内にばらまかれてしまったのでは ・ ・ ・ ・ ・ と思いきや、事はもっと深刻だった。

この歌を送った相手が、妹のカルだったのだ。

軽大郎女

軽大郎女

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

まだ一夫多妻制の時代なので、近親相姦きんしんそうかんの概念が今よりもかな〜りユルかった古代。父親が同じでも母親さえ違っていれば、近親相姦という感覚はなかった。

しかし、キナシとカルの場合は父親も母親も同じ。こんなタブーな恋を、天皇になるはずの皇太子がするなんて、大大大大大大問題だ。

しかも、この時代の『歌』にはTwitter並の拡散効果があり、キナシの歌は火消しする暇もなくあっという間に国中に知れ渡り、大炎上となってしまう。

すると、朝廷に勤めている家臣たちだけではなく、国中の人々から『近親相姦なんて気持ちが悪い。三男の安康を次の天皇にするべきだ。』と言う意見が広がった。

それを知った安康が、廊下ですれ違ったキナシを呼び止める。

安康

安康

あっ!キナシ兄っっ!!

なんなんだよ、あの週刊誌が好きそうな大スキャンダル。

安康

安康

あれのせいで、みんな、キナシ兄じゃなくて僕を天皇にしろって言ってくるんだ。

木梨之軽王

木梨之軽王

あぁ ・ ・ ・ ・ ごめんな。

安康

安康

いいから、早く正式にガセネタだって言ってよ!今ならまだ、なんとかなるから!!

木梨之軽王

木梨之軽王

いや ・ ・ ・ ・ ・ いつかは明るみに出ると覚悟していた事だから。否定するつもりはないんだ。

安康

安康

えっ??ちょっと何言ってんの。冗談でしょう?

安康

安康

兄妹で付き合ってるなんて認めたら、国の恥だよ?

木梨之軽王

木梨之軽王

ごめん。

安康

安康

うそ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 否定しないの??

木梨之軽王

木梨之軽王

あぁ。

安康

安康

そんな ・ ・ ・ ・ ・

木梨之軽王

木梨之軽王

迷惑かけて、申し訳ないとは思ってる。でも ・ ・ ・ ・ ・

木梨之軽王

木梨之軽王

もうこれ以上、カルに悲しい思いをさせたくないんだ。

安康

安康

やめてよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 気色悪い ・ ・ ・ ・

木梨之軽王

木梨之軽王

別に人からオレらの関係を理解してもらおうなんて思っていないさ。

安康

安康

なんだよそれ。皇太子なのに、無責任じゃないか。

木梨之軽王

木梨之軽王

・ ・ ・ ・ ・ そうだな、ごめん。

安康

安康

もしキナシ兄が本当に、国よりもカルを取るって言うなら、僕だってこれからのこと、ちゃんと考えるから。

こうなると、国民の心はみんなキナシから離れて安康の方へと移ってしまう。

木梨之軽王

木梨之軽王

はぁ ・ ・ ・ ・ 覚悟はしていたものの、まさかあのプライベートな歌が漏れるとは思わなかったな。

木梨之軽王

木梨之軽王

はは ・ ・ ・ 週刊誌ネタねぇ。全くだ。

木梨之軽王

木梨之軽王

しかし、炎上もここまでくると身の危険を感じるな。

この流れが恐ろしくなったキナシは、家臣の大前小前オオマエオマエの家に逃げ込むことにした。

line

大前小前

大前小前

キナシ様 ・ ・ ・ ・ ・ やはりあの噂は本当だったんですか。

木梨之軽王

木梨之軽王

あぁ、申し訳ない。

大前小前

大前小前

この件については、私も庇えません。

木梨之軽王

木梨之軽王

分かってる。でもあれからカルに会えてなくて ・ ・ ・ ・ 今、死ぬわけにはいかないんだ。

大前小前

大前小前

しかし ・ ・ ・ ・

木梨之軽王

木梨之軽王

このまま朝廷にいたら、暗殺されかねない。

大前小前

大前小前

・ ・ ・ ・ ・ ・

木梨之軽王

木梨之軽王

頼むよ、他に頼れるアテが無いんだ。

大前小前

大前小前

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぁ ・ ・ ・ 仕方ありませんね。

木梨之軽王

木梨之軽王

ごめん、ありがとう。安康に場所が知られる前に戦いの準備をする。

こうしてキナシは武器を作って戦いに備えることにした。

(ちなみに、この時にキナシが作った、矢の先が『銅』の矢を、キナシの本名『木梨軽皇子』の『軽』を取って『軽矢』。それに対抗して安康が作った、矢の先が『鉄』の矢を、安康の本名『穴穂尊』の『穴穂』を取って『穴穂矢』と呼ぶようになった。)

なんて豆知識が入っているが、正直、今はそんな話どうでもいい。

カシャカシャ

せっせと弓矢を用意するキナシを心配そうに見ていた大前小前は、不穏な物音に気付き、慌てて外の様子をうかがった。

すると曇り空の下、武装した兵士たちが自分の屋敷を取り囲んでいるのが見えた。さらに、正面玄関に向かって安康が歩いて来る。

大前小前

大前小前

あああ ・ ・ ・ ・ 困ったことになった。キナシ様にはずっとお世話になって来たけれど、近親相姦の犯罪者なんて匿えない。

大前小前

大前小前

このまま戦いが始まれば、私の家族まで巻き添えになってしまう。

大前小前オオマエオマエの屋敷が緊張感に包まれる。しかし、安康たちが門のところまでくると、急に凄まじい雹が降ってきた。安康は慌てて門の下へと避難をする。

しばらくすると、こんな歌が聞こえてきた。

安康

安康

そうだそうだ、大前小前の立派な門に寄って行こう!こうして門の陰に立ちながら、僕はこの激しい雨を止ませてみせよう!!

安康の声だ。

大前小前

大前小前

これは戦いを止めるチャンスっ!!

そう思った大前小前は、この緊迫した空気を壊そうと、手を上げてパンパンと自分の膝を叩き、袴に結んだ鈴を鳴らしながらクルクルと舞った。

そして、安康に聞こえるように大声で歌い出す。

大前小前

大前小前

宮中の女は足に結んだ小鈴が落ちただけでキャッキャと騒ぎ立てる。里人も同じで、小さいことをいっつも大きく騒ぎ立てる。

大前小前

大前小前

どうかそんな面倒なことにはなりませんようにっ!!

安康

安康

大前小前!なんだよ、その変な歌。それより、キナシ兄を匿ってるでしょう。

安康

安康

あの人は犯罪者だ。この雨が止んだら、すぐに開戦だからなっ!!

大前小前

大前小前

ああ、今は亡き私の天皇、允恭陛下の御子様。どうか、こんなことはやめてください。

安康

安康

駄目だよ。だって、キナシ兄は皇太子だったのに人の道を外れたんだもの。

安康

安康

そりゃ僕だって兄弟を殺したくなんかないけれど、ちゃんとケジメをつけなくちゃ。

大前小前

大前小前

しかし、キナシ様はあなたの実の兄です。これから天皇になるあなたが兄と戦えば、『またお家騒動か』と言って人は絶対に笑うでしょう。

安康

安康

それでも ・ ・ ・ ・ 犯罪者を放っておくことはできないよ。

大前小前

大前小前

大丈夫です。代わりに私がキナシ様を説得して捉えます。

安康

安康

うぅん ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・

大前小前

大前小前

どうか、ご安心ください。必ずお連れしますから ・ ・ ・ ・

安康

安康

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかったよ。今は兵を引く。

そう言うと、安康は兵を解いて帰って行く。

大前小前

大前小前

キナシ様、聞こえていらっしゃいましたよね?

木梨之軽王

木梨之軽王

ああ、すまない。

大前小前

大前小前

一緒に来ていただけますか?

木梨之軽王

木梨之軽王

あぁ ・ ・ ・

こうしてキナシは、大前小前に捕らえられた。

木梨之軽王と軽大郎女

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