天皇記『ヤカワエヒメとの出会い』
ヤカワエヒメとの出会い
そして、来る者拒まず ・ ・ ・
そんな生活を続けていたら、いつの間にか男子11人、女子15人、合計26人と、超子だくさんになっていた。
応神天皇
あれ?子供、また増えた??
ウジノワキ
父上、どうかなさいました??
応神天皇
あ、いや、ごめん。たぶん気のせい。
ウジノワキ
はぁ ・ ・ ・
となると、問題になるのが皇太子選びなのだが、応神の中ではすでに誰にするかを決めていた。末っ子のウジノワキだ。
応神天皇
ウジィは今日もかわいいなぁ〜♡
と、言うのも、ウジノワキは来るもの拒まずの生活の中で唯一自分から声をかけた相手との子だったのだ。
それは、今から数年前のお話 ・ ・ ・
彼女との出会いは
その日はとてもよく晴れた日だった。応神は
『
山の上からは、
応神天皇
わぁ〜!!たくさんの葉っぱが生い茂る葛野の地を見渡すと、多くの家々が並んでいて、庭まで綺麗に整備されてる。
応神天皇
ココが秀でた国だってことがよくわかるいい景色だな!
応神が上機嫌で歌を詠うと、地元民はとても喜んだ。天皇がその土地の歌を詠ってくれれば、運気がアップするだけでなく、地域の活性化にもなる。
国見儀礼を今の感覚に変えると、人気のアイドルを使って地域PRのCM放送をするのに近いかもしれない。
応神は国見儀礼を終えると、また
しばらくして宇治の脇の
応神天皇
えっ ・ ・ ・
???
・ ・ ・ ・ ・ ?
彼女と目が合うと、まるで時間が止まってしまったみたいだ。
しかし、そう感じているのは応神だけで、実際、馬は前へ前へと進んでいた。
そして時は動き出す。
既に彼女は遥か後方だ。応神は馬を乗り捨てて ・ ・ ・ というか、半ばずり落ちて、彼女の元に走って行き腕を掴んだ。
応神天皇
ちょっと、君っ!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ 誰の子っっ!?
???
はいっ!?
急に声を掛けられ、彼女は驚いた表情で振り返る。初対面で自分よりも親の名前を知りたがるなんて、変わったナンパだ。
ヤカワエヒメ
でも、身なりはしっかりしてるし、悪い人では無さそう。
彼女は不審に思いながらも、とりあえず名を名乗る。
ヤカワエヒメ
私はヒフレノオミの娘、ヤカワエヒメと申しますが ・ ・ ・
応神天皇
ヒフレノオミ!
ヤカワエヒメ
え?母上??
応神天皇
いや、こっちの話。それより、明日、必ず迎えに行くからっ!
俺、今、仕事中で急いでてっ!!
ヤカワエヒメ
えっ??迎えにって ・ ・ ・ ・ ・
応神天皇
絶対行くらっ!待っててくれよなっっ!!
それだけいうと応神はまた馬の方に走って行った。馬に跨がり振り返ると、彼女はぺこりと頭を下げ、
応神天皇
ヤカワエちゃんかぁ ・ ・ ・ 後ろ姿まで、盾みたいにすらっとしてて綺麗 ・ ・ ・
応神の人生初の一目惚れだった。
一方、ヤカワエヒメは和邇の家に帰ると早速このことを父親に報告した。
ヤカワエヒメ
すごい不審者だったけど、でも悪い人では無さそうだけど ・ ・ ・ でも名前すら教えてもらってないのに、どうしよう。
といった内容だ。
父親は彼女の話しを聞いて驚いた。だって、その特徴が天皇にそっくりだったからだ。
父親
ていうか、それ、天皇なんじゃない?
父親は、喜んでお仕えしろと言って、慌てて嫁入りの準備を整えた。
そして翌日。ヤカワエヒメの家族が家を綺麗に飾って待っていると
応神天皇
ごめんくださーいっっ!!
と、ラフな感じで応神が家にやって来た。
父親
ほら!やっぱり天皇だったじゃないか!!
父親は、酒を用意し応神をもてなす。
応神天皇
わわっ、こんなにご馳走、用意してくれたんですか??
応神天皇
ごめんなさい、気ぃ使わせちゃいましたね。
父親
いっ、いえっ!!!滅相もございませんっっ!!!!
部屋ではヤカワエヒメが綺麗な着物を身に纏い、端っこの方でちょこんと正座をしている。
父親
ほらっ!ヤカワエ、陛下にお酒をお渡ししてっ!!!
ヤカワエヒメ
へっ!?はっ!はいっ!!
父親がヤカワエヒメに大きな盃を持たせて酒をトクトクと継ぐ。彼女は盃を持ちながら、緊張した面持ちで応神の前にちょこんと座った。タダでさえ可愛いのに、顔を真っ赤にして上目遣いをされると死ぬほど可愛い。
応神はキューンと胸を高鳴らせながらも、彼女の緊張がほぐれるようにと思い、盃をもらう前に歌を詠い出した。
応神天皇
えっと ・ ・ ・ あの、今日、用意してくれた、ご馳走のカニってどこのカニなんだろうね?
ヤカワエヒメ
はい??
応神天皇
敦賀のカニかな??すごい遠いのにわざわざ用意してくれてありがとう。
ヤカワエヒメ
はぁ ・ ・ ・
応神天皇
でも、このカニ、新鮮だから、横歩きをして琵琶湖の方まで逃げて行っちゃいそうだね?
ヤカワエヒメ
・ ・ ・ !
そして両手でピースを作り、チョキチョキしながら笑うと、彼女も遠慮しがちににっこりと歯を見せて笑う。
応神天皇
やだ。なに、その笑顔。 ・ ・ ・ たまらん。可愛いすぎる。
ヤカワエヒメ
気遣ってもらっちゃった ・ ・ ・
応神は幸せを噛みしめながら歌を続ける。
応神天皇
俺さ、カイツブリって水鳥が琵琶湖を潜ったり顔を出したりたりしながらスイスイ泳ぐみたいに、琵琶湖のそばを馬に跨って進んできたんだ。
応神天皇
そしたら、木幡村である娘に出会ってね。
応神天皇
その子は遠くから見れば盾のように美しい立ち姿で、近くで見れば白く美しい歯が綺麗に並んでいる、素敵な子だった。
そう言うと、彼女はは恥ずかしそうに両手で歯を隠してしまう。
応神天皇
あぁ。動きから何から何まで全部可愛い。
ヤカワエヒメ
チェック細かい ・ ・ ・ ・
応神の歌はまだ続く。
応神天皇
ところで、
ヤカワエヒメ
??
応神天皇
あれって赤すぎて焼き物に使えないんだよ。しかも、掘りすぎても黒くて使えないの。
応神天皇
でもね、その中間のちょうどいい中ごろの土を使って、直接火に当てずに低温で焼き上げると、綺麗なブラウンの色が出るんだ。
応神はヤカワエヒメを見つめると、そっと彼女の眉に触れる。
応神天皇
俺が出会った子は、そんな貴重な土を使って作ったんだろうな〜って思うほど、上品な色の眉墨を使っていて、眉まで綺麗に揃えてる美しい人だった。
ヤカワエヒメ
へぇー!アイブロウのカラーまで気づいてくれる男の人っているんだ ・ ・ ・ ちょっと、嬉しいかも。
彼女がまた顔を赤らめる。応神はそのまま頬をなぞる。
応神天皇
はぁ ・ ・ ・ ほっぺも可愛い。
応神天皇
その子と、あんなことできたらなぁ〜。とか、こんなことできたらなぁ〜。なんて願ったり、妄想しちゃったりなんかして ・ ・ ・
ヤカワエヒメ
・ ・ ・ えっ?
応神天皇
あっ、いや ・ ・ ・
歌っている間に内心考えていた恥ずかしい妄想が表に出てしまい、応神はハッと気付いて手を引っ込めると、困ったように笑った。
応神天皇
深い意味は無くて ・ ・ ・
しかし、彼女は引いている素振りもなく、嬉しそうに歌を聞いてくれている。
ヤカワエヒメ
ふふっ ・ ・ ・ 陛下、顔、真っ赤になってる。かわいい。
安心した応神は、恋する乙女のようなトロンとした表情で歌を続けた。
応神天皇
でも ・ ・ ・ 気付けば、今、その子とこうして向き合ってる。
応神天皇
こうやって君と寄り添うことができるなんて、すっっごく幸せだ。
応神の歌が終わると、彼女は恥ずかしそうに盃を渡してきた。
ヤカワエヒメ
あの ・ ・ ・ 素敵な歌を、ありがとうございます。
そう言って微笑むヤカワエヒメは最高に可愛かった。
こうして彼女との間にできた子供がウジノワキだったのだ。
やがて、ウジノワキにも子どもができる程、息子たちは大きく成長した。その中で皇太子候補に囁かれていたのは3人だった。長男のオオヤマモリ、次男のオオサザキ、そして末のウジノワキだ。
長男のオオヤマモリは、名前の通り『山の主か何かですか?』と問いたくなるほど恰幅が良く、山で出会ったら熊と見間違えそうな見た目だった。
彼の後ろにいれば、どんなに荒れた戦場でも死ぬ気がしない。そんな戦国武将のようで、気の強い人だった。
オオヤマモリ
趣味はウェイトトレーニングだっ!現在、胸筋強化月間実施中だっっ!!!
次男のオオサザキは、漢字で書くと『大雀』。大きなスズメにするくらいなら最初からもっと大きな鳥の名前にしてあげればよかったのに。
彼は、そんなサザキの名に似合わず、スゲー女好きで、天皇よりオオクニヌシの名を継いだ方がいいんじゃないかとさえ言われていた。
とは言っても、女さえ絡まなければ、聡明で面倒見のいいみんなの兄貴的な存在だった。
オオサザキ
趣味??んー。せやなぁ。とくにはあらへんけど、しいて言うなら巨乳が好きやな。
末のウジノワキは、まぁ、一言で表すなら「ショタ系」だ。なんか、守ってあげたいタイプ。応神も溺愛しちゃうわけだ。戦場に出ようもんなら、一瞬で吹き飛ばされちゃいそう。
しかし、彼自身、自分に体力が無いことは重々承知していたので、可愛い見た目によらず、ちゃんと戦略を練ってから行動する段取り人間だった。
ウジノワキ
え、趣味ですか?そうですねぇ、読書とか好きですよ。
ウジノワキ
あと、お昼寝も好きです。あんまり身体が丈夫じゃないので、基本はインドア派です。
そんなある日。
応神天皇
最近、俺も老けたよなー
と感じてきた応神は、
応神天皇
子供たちもみんな大きくなったし、ちゃんとウジィを皇太子にすることを伝えよう。
と考え、長男のオオヤマモリと次男のオオサザキを部屋に呼んだ。
もう年齢的に、応神の見た目はいいおじいちゃんになっているはずなのだが、神の血筋は老けない設定は健在なので、こうして並んでいると3兄弟で話しているみたいだ。
応神は本題に入る前に、1つの質問を2人に投げかける。
応神天皇
ところで、お前らさ。孫もだいぶ大きくなってきたけど、『上の子』と『下の子』どっちが可愛いと思う??
オオヤマモリは、何も考えずに
オオヤマモリ
上の子ッス!!!まじ可愛いッス!!!
と答えた。
一方、オオサザキは、
オオサザキ
あー。こりゃあれやな。ウジィの話やな。
と思い、
オオサザキ
下の子ですね。兄の方はもう成人しとるんで、特に心配することもないんやけど。
オオサザキ
弟の方はまだちっこくて手ぇもかかるんで。可愛くて放っとけへんのです。
と答えた。
応神天皇
だよなぁ~!わかるよ、サザキぃ!!俺も下の子の方が可愛いと思うっ!!
応神はオオサザキの答えに対し、満足そうに返事をした。
応神天皇
そしたら、オオヤマモリ、お前は山と海の政を任せるよ。
オオヤマモリ
えっ!?ワシが田舎を治めるんですか?
オオヤマモリはまさか皇太子候補の自分が山守なんかに指名されるとは思っていなかったようで、でっかい口をポカンと開ける。
応神天皇
何言ってるの。山と海はこの国の大切な財産だよ?
オオヤマモリ
はぁ ・ ・ ・
応神天皇
で、オオサザキは
オオサザキ
わかりました。
オオヤマモリ
はぁ?オオサザキが
応神天皇
ウジノワキを皇太子として立てるよ。
オオヤマモリ
ウジノワキ!?
応神天皇
2人とも、ウジィのサポートをよろしくね!
オオサザキ
はいな。
オオヤマモリ
はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オオサザキは、ショックで固まってしまった兄のケツをちょんと突ついて退室を促す。
オオサザキ
ほな、兄ちゃん行くで。
そして、2人は応神の部屋を後にした。
オオヤマモリ
なんであのちっこい末っ子が!!!
部屋を出てしばらく歩くと、オオヤマモリが大声で叫び出す。
オオサザキ
やかましいわ、兄ちゃん。親父に聞こえるで?
オオヤマモリ
んなこと言ったって、アイツの母親は和邇の出だろっ!!
オオヤマモリ
コッチは景行天皇の血を引いてるんだぞっ!!お前だってそうだろうがっ!!
オオヤマモリとオオサザキの母親は姉妹なので、共に景行天皇の曾孫にあたる。
オオサザキ
和邇かて、辿りゃ皇族やん。
オオヤマモリ
濃度が違うわっっ!!
オオサザキ
んな、変わらへんやろ。
オオヤマモリ
大違いだっ!!
オオサザキ
はぁ ・ ・ ・ ひつこいな。もうえぇやろ、親父の決めたことなんやから。
オオサザキはオオヤマモリの主張を取り合わず、彼が応神の言葉に逆らうことは無かった。