天皇記『大長谷王子の狩り』
大長谷王子の狩り
そして、次の日。
まだ日の出も登る前にオシハは馬に乗って、オオハツセの仮宮の傍らまでやって来た。
市邊之忍歯
あれ?ハツセくん、まだ寝てるのか。昨日は、あんなに意気込んでたくせに。
市邊之忍歯
早く狩場に行かないと、太陽が出ちゃうよ。
そして、ラフな感じでオオハツセの供人に話しかける。
市邊之忍歯
ねぇ、ハツセくんは、まだ起きてないの??早く起きるように言ってもらえないかな。
家臣
あ、はい ・ ・ ・ ・
市邊之忍歯
もう夜はとっくに明けてる。狩場に行く時間だよ。
家臣
えっ??
家臣
まだ日の出前じゃないか ・ ・ ・ ・ 変な人。
市邊之忍歯
オレは先に行ってるから。ハツセくんに伝えておいてね。
家臣
・ ・ ・ ・ ・ わかりました。
オシハは馬を進めて、さっさと狩場へと向かってしまった。
供人は不信感を募らせながら、オオハツセに報告をする。
家臣
でもまだ太陽も出ていないのに、『夜は明けた〜』だなんて、すごく大袈裟だと思いませんか??変な方ですよね。
大長谷命
んっ、んあぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あ??
家臣
ねぇ、オオハツセ様、聞いてます??最近、ずっと嫌な事件続いてますし、絶対用心した方がいいですって。
大長谷命
ん〜〜 ・ ・ ・ ・ ・ ・あぁ ・ ・ ・ ・
家臣
ほら、オオハツセ様ってば!寝てないで、ちゃんと武装してくださいよ。オシハ様に命を狙われたら大変です!
大長谷命
あ? ・ ・ ・ ・ ・ ・
家臣
分かんないですけど、大袈裟な人だし用心しないと。
大長谷命
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 分からないのか ・ ・ ・
家臣
だって、まだ真っ暗なのに『夜は明けてる』なんて。大変なことを言う方です。
大長谷命
・ ・ ・ ・ そんなんで、この騒ぎようか。
家臣
ですけど、何かあったら怖いじゃないですか。だから、ちゃんと身を固めて行ってくださいねっ!!
大長谷命
そうか ・ ・ ・ ・
大長谷命
わかった。殺す。
家臣
えっ?
オオハツセは着物の中に
大長谷命
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いた。
オオハツセはたちまちオシハの馬の横に自分の馬を付け、並んで走った。
市邊之忍歯
わっ、早。ハツセくん、この距離そのペースで走ってきたの??
大長谷命
ああ、そうだ。アンタを殺そうと思ってな。
市邊之忍歯
はぁっ!?
そう言うと、オオハツセは矢を抜いてオシハを打った。
市邊之忍歯
痛っ ・ ・ ・ ・
大長谷命
追いついた。
市邊之忍歯
ちょっ ・ ・ ・ ・ ハツセくん? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ これ、どーゆうこと??
大長谷命
あ?
市邊之忍歯
オレ、昨日、けっこう君と仲良くなったつもりだったんだけどな ・ ・ ・ ・ ・
大長谷命
ああ。そうだな。
市邊之忍歯
・ ・ ・ ・ えぇ。そこの認識は合ってんだ。てっきり、騙されたのかと思ったよ。
大長谷命
んな、回りくどいこと俺がするかよ。
市邊之忍歯
参ったな ・ ・ ・ ・ いつ気が変わっちゃったんだろ。
大長谷命
今朝だ。
市邊之忍歯
まじか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ つっ ・ ・ あぁ、ものくそ痛い ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
大長谷命
死ね。
市邊之忍歯
いや、待ってよ。オレ、なんか悪いことした?殺される理由は??
大長谷命
アンタは民衆を惑わす。
市邊之忍歯
なにそれ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 全く身に覚えがないんですけど。
大長谷命
そうか、死ね。
市邊之忍歯
まじか。オレ、そんなわけ分かんない理由で、殺されんの??きっつ。
大長谷命
そうだ、死ね。
市邊之忍歯
あぁぁ ・ ・ ・ ・ ・ 全然会話にならない。
市邊之忍歯
こんなことなら、出かける前に、思いっきりオケヲケにハグしてくればよかったな ・ ・ ・ ・
大長谷命
オケとヲケ ・ ・ ・ 息子か。あいつらにも
市邊之忍歯
はぁ?何言ってんの?
市邊之忍歯
あいつらまだガキだから。皇位とか関係ないから。オレの息子にまで何かしたら、まじ呪うからな。
大長谷命
別に。邪魔にならなければ殺らない。
市邊之忍歯
はっ!オレもお前の邪魔してねぇんだけど。
大長谷命
アンタはこの国の邪魔だ。
市邊之忍歯
はぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ やっぱ、お前、意味わかんねぇ。
大長谷命
これから死ぬ人間に、説明する必要はない。
市邊之忍歯
そぅ ・ ・ ・ ・
大長谷命
死ね。
市邊之忍歯
・ ・ ・ ・ っ!!
オオハツセはオシハを斬り殺した。
そして、その辺にあった馬の
大長谷命
オケとヲケか。
大長谷命
どうするかな ・ ・ ・ ・
オオハツセは明るくなった空を見上げた。
この
オケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 父上 ・ ・ ・ ・
ハエヒメ
オケ、ヲケ ・ ・ ・ ・ ここにいては、あなたたちもあの男に殺されてしまいます。今すぐ遠くへお逃げなさい。
ヲケ
え?母上は??
ハエヒメ
身分が知れてはすぐに見つかってしまいます。私はもちろん、お供もつけることができません。
ヲケ
えぇ!?
ハエヒメ
2人で
オケ
わかりました。
ヲケ
兄ちゃん ・ ・ ・ ・
ハエヒメ
オケ、ヲケを頼みましたよ。
オケ
はい。
ヲケ
母上 ・ ・ ・ ・
オケ
ヲケ、行くよ。
ヲケ
・ ・ ・ ・ ・ ・
ハエヒメ
ヲケ、早く行きなさい。
ヲケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はい ・ ・ ・
こうして、オケとヲケは自分たちの屋敷を出た。
やがて、
ヲケ
ねぇ、兄ちゃん、まだ着かないの??もう疲れたよぉ ・ ・ ・ ・
オケ
うぅん ・ ・ ・ ・ もうちょい先まで行きたかったんだけどな ・ ・ ・ ・
オケ
まぁ、追手もいないし大丈夫か。お弁当休憩しよ。
ヲケ
わぁい!
こうして2人が弁当を開くと急に、目に
猪甘
そいつを、よこせっっ!!
その老人は無理やり2人の弁当を奪ってしまった。
ヲケ
あっ!! ・ ・ ・ ・ 僕のミートボール!!
オケ
ヲケ、下がって。追手か?
猪甘
追手??お前ら追われてるのか??
オケ
ええ ・ ・ ・
オケ
今、隣村の子が鬼なんです。お爺さんは、鬼に頼まれて来たんじゃないんですか?
猪甘
フン!んな馬鹿げたお遊びに関わるわけねぇだろ。食い物が欲しいだけだ。ガキのくせに、米なんか食いやがって。生意気な。
ヲケ
ねぇ ・ ・ ・ 兄ちゃん、母上が作ってくれたミートボール ・ ・ ・ ・
オケ
ヲケ、黙って。
ヲケ
あぅ。
オケ
お爺さん。我々は、その弁当は惜しくありません。でも、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?
猪甘
あ?俺は
オケ
山代の豚飼い衆か。
猪甘
あん??
オケ
わかりました ・ ・ ・ 覚えておきましょう。
ヲケ
兄ちゃん、ミートボール ・ ・ ・ ・
オケ
ヲケ、行くよ。
ヲケ
えぇっ??
オケ
さようなら。山代の猪甘さん。
猪甘
あ? ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ。
オケはヲケの手を引っ張り、そそくさとその場を去った。
猪甘
変なガキ。
そして、
しばらく歩くと、大きなお屋敷を見つけることができた。
オケ
ごめんください。シジムさんのお宅でしょうか?
シジム
ああ、君らか。話は聞いてるよ。こんな小さいのに、親元を離れて住み込みで働きたいなんて、感心だね。
ヲケ
・ ・ ・ ・ え?働くの??
シジム
ん?
オケ
いえ、働き口が見つかって嬉しいです。お役に立てるよう頑張りますので、よろしくお願いします。
シジム
はぁー。ずいぶんとしっかりした子だね。ちょうど人手が欲しかったもんだから助かる。ささっ、上がりなさい。
オケ
はい、ありがとうございます。
ヲケ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
オケ
ほらヲケ、おいで。
ヲケ
あっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うん。
オケとヲケは、馬飼、牛飼になって、
大長谷命
オケとヲケが見つからないだと?
家臣
探しますか?
大長谷命
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いや。邪魔にならないなら良い。
こうして、