天皇記『八咫烏』
八咫烏
イツセを失ったイワレビコと久米兵は進路を迂回し、熊野(三重県)の森に着いた。
すると、いきなり目の前にでっかい大熊が現れる。

イワレビコ
襲われる!!
と思い身構えたが、大熊はすぐ藪の中に消えてしまう。

イワレビコ
・ ・ ・ なんだったんだ? ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 今の。
イワレビコが動揺していると、パタリ。後ろで誰かの倒れる音がした。

イワレビコ
・ ・ ・ え?
振り返ると、パタパタと久米兵が倒れて行く。

イワレビコ
まずい!大熊の毒気にやられた!!
と、気付いた時には既に遅く、イワレビコもすぐに意識が遠のき倒れてしまう。
大熊は荒ぶる神の化身だったのだ。
彼らの意識が無くなってから、かなりの時間が経った。
すると、どこからか立派な剣を持った男が息を切らしながら彼らの元に走って来た。

???
ハァ ・ ・ ・ ハァ ・ ・ ・
そして久米兵を飛び越え、イワレビコの前まで辿り着くと思いっきり剣を振りかざす。

イワレビコ
ハッ!!
その瞬間、イワレビコは目を覚ました。

イワレビコ
あれ??おれ、長いこと ・ ・ ・ ・ 眠ってたのか?
男は頭を下げると膝を付き、イワレビコにその剣を差し出す。

タカクラジ
どうぞ、お受け取りください!

イワレビコ
えっ、あぁ・・・
イワレビコがその剣を受け取ると
と、獣の叫ぶ声が聞こえた。
先ほどの熊神が、剣の神力で勝手に死んでしまったのだ。それと同時に久米兵が次々と目を覚ましていく。

イワレビコ
えっ!?なにこの剣??すごっっ!!

イワレビコ
てか、あなたは一体 ・ ・ ・

タカクラジ
はっ、私は国つ神のタカクラジと申します。タケミカヅチ様の命で参りました。

イワレビコ
宝クジさん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 夢のあるいい名前だな。

タカクラジ
いえ、タカクラジです。

イワレビコ
え?あ、悪い。えっと ・ ・ ・

イワレビコ
そしたら、その剣はタケミカヅチ様がタカクラジさんに?またこっちに降りて来たのか??

タカクラジ
いえ、タケミカヅチ様には直接お会いしていないんです。実は夢を見まして ・ ・ ・
タカクラジは、その不思議な夢の話しを始めた。
・ ・ ・ 私は気がつくと、広い部屋に雲がかかったような、不思議な空間を覗き込んでおりました ・ ・ ・
そこには見るからに高飛車な雰囲気の女の子と、ふわふわした感じの男性が深刻な顔をして座っておりました。そして、いきなり部屋の戸が開いたかと思うと、ヤンキーみたいな男が入って来て、2人の前で膝を付いたのです。

タケミカヅチ
タケミカヅチっス!!アマテラスの姉御、高木の旦那、お呼びでしょうか!!
そのお名前を聞いて驚きました。高飛車が天照大神様で、ふわふわが高木神様だったのです。お2人がタケミカヅチ様を呼び出されたご様子でした。

タカミムスビ
タケミカヅチさん、急に呼び出しちゃってすみません。葦原の中つ国が最近、騒がしく乱れているという話しは聞いていますね?

タケミカヅチ
ウっす!

タカミムスビ
そこで ・ ・ ・
と高木神様が言いかけると、天照大神様が取り乱したご様子で ・ ・ ・ ・ ・ ・

アマテラス
それでね、私の子が熊野で困ってるらしいのっ!

アマテラス
ねぇ、どうしよう!!あの子達、大丈夫かなぁ??悪い国つ神にいじめられてないかなぁ???

タケミカヅチ
はぁ ・ ・ ・

アマテラス
葦原の中つ国はあんたが平定させたんだからさぁ、あんたが、あの子達のこと助けに行ってあげてよっ!!

タケミカヅチ
はぁ??いや、でも、せっかくお子さんたちに任せたんスから、そこは見守ってやるのがスジってもんじゃないっスか??

タケミカヅチ
過保護は良くないっスよ。

アマテラス
ぶぅ ・ ・ ・ でも心配なのっ!!!

タケミカヅチ
んーー ・ ・ ・ わかりました。
したら、わざわざ俺が行かなくても、出雲で使った剣があります。それを熊野に下ろしてやりましょう。

タケミカヅチ
熊野には、タカクラジっていう国つ神がいるんス。アイツの倉の屋根に穴を空けて剣を落としておいて、目覚めたらイワレビコの坊ちゃんに献上するよう伝えときます。

アマテラス
うぅん ・ ・ ・ ・ なんだか、夢のある良い名前ね。じゃあ、その人にお任せしようかな ・ ・ ・ 。

アマテラス
よろしくね、タケミカヅチ。

タケミカヅチ
ウッス!!
そういって、タケミカヅチ様が天照大神様に一礼し顔を上げると、そのままスっと私の方を見たのです。彼らからは見えていないと思っていた私は驚いて跳ね上がりました。

タカクラジ
そこで目が覚めるといつもの私の部屋で ・ ・ ・ 慌てて倉を覗きに行ったら屋根にはぽっかりと穴が空いていて、

タカクラジ
夢に出たこの剣が置いてあったので、これは夢じゃない!!と思い、急いでこちらに参った次第です。

イワレビコ
そっか ・ ・ ・ アマテラス様、オレらのこと忘れずに見守ってくれてたんだ。
頼れるイツセの死で、拠り所を失っていたイワレビコの心が、なんだか急に軽くなった気がした。

タカクラジ
たいそう心配しておられましたよ。

イワレビコ
よかった ・ ・ ・ オレはてっきりニニギ様がブスを追い返したせいで、見放されちまったモンだと思ってたから ・ ・ ・

タカクラジ
へ?

イワレビコ
え、あ、ごめん。身内ネタだった。

イワレビコ
・ ・ ・ ・ ってことは、この剣はあの時のものなんだな ・ ・ ・ ・ ・ ・ あの出雲の波打ち際で ・ ・ ・

イワレビコ
タケミカヅチ様のケツにブッ刺さった、あの ・ ・ ・ ・ ・ ・

タカクラジ
へ??

イワレビコ
あぁ、いや、悪い。これも身内ネタだったわ。
この剣はやがて神格化し、フツノ神と呼ばれるようになった。今でも奈良県の石上神宮に祀ってある。

イワレビコ
ありがとう、タカクラジさん。助かったよ。じゃあ、オレらはこれで。気絶してた分、先を急がなくちゃ。

タカクラジ
あっ、もう少しお待ちください!

イワレビコ
ん?まだ何か?

タカクラジ
はい、実は、ここまでの道中、私の頭の中にスピーカー越しのような声が響きまして ・ ・ ・
・ ・ ・ プツッ

タカミムスビ
・ ・ ・ ス ・ ・ ス ・ ・ ・ テステス ・ ・ ・ あーあー。どもー聞こえますかー??高木ですけどー ・ ・ ・ ココ、タカクラジさんの脳みそで大丈夫ですかね?大丈夫そうですかね。

タカミムスビ
いやー ・ ・ ・ 熊野なんですけど、他にも荒々しい神がいっぱい住んでいましてね。イワレビコくんにあんまり山奥とか入らないで欲しいんですよ。

タカミムスビ
高天原から
ガサッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

タカミムスビ
よし。これでちゃんと伝わったのかな?

タカミムスビ
・ ・ ・はぁ。オモヒカネが降りちゃってからずっとこんな仕事ばっかだy ・ ・ ・
プツッ・ ・ ・ ツーッツーッーー ・ ・ ・ ・ ・ ・

タカクラジ
・ ・ ・ ・ ・ ・ とのことで ・ ・ ・

イワレビコ
そ、そっか。 ・ ・ ・ なんか ・ ・ ・ 上は上でいろいろあるんだな ・ ・ ・ ・ ・ ・

イワレビコ
高天原か ・ ・ ・ 一体、どこらへんにあんだろ ・ ・ ・ ??
とか考えながら、しばらくの間、ぼーっと空を眺める。
イワレビコが物心ついた頃には、すでに世界の形も出来上がっており、葦原の中つ国から高天原を見つけることはできなくなっていた。
しばらくすると、一羽のカラスが飛んで来た。
そのカラスは、スゥーっとイワレビコの肩に止まる。よく見ると足が三本も生えているではないか。

イワレビコ
まさか、このカラス ・ ・ ・ ・ ・ ・

イワレビコ
サッカー日本代表エンブレムの元ネタ!!!!!

八咫烏
フン!俺様が案内してやるよ。ついて来なっ!!

イワレビコ
しかも、喋った!!
イツセの死から嫌なこと続きだった一行は、新たな仲間にテンションが上がった。
こうして高天原のサポートを受けながら、イワレビコ達の旅は始まった。