古事記の原文『因幡の白兎』

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『因幡の白兎』の原文

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原文の概要

天武天皇

天武天皇

スサノオの6世孫としてオオクニヌシが生まれる。オオクニヌシは兄たちに従って因幡へ行く途中、傷ついたウサギと出会う。オオクニヌシが傷の治し方を教え、ウサギは元通りになる。

安万侶

安万侶

いなばのしろうさぎ!これも有名なむかし話ですよね!!

天武天皇

天武天皇

ああ、絵本で読んだことある人も多いだろうな。

原文&読み下し文

オオナムチ、白ウサギ

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、其櫛名田比売以、久美度迩起而、所生神名、謂八島士奴美神。又娶大山津見神之女、名神大市比売、生子、大年神。次宇迦之御魂神。(二柱)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

かれ 、その 櫛名田比売 くしなだひめ をもちて、 隠所 くみど こして、生める神の名は、 八島士奴美 やしまじぬみの と謂ふ。また大山津見神の むすめ 、名は 神大市比売 かむおほいちひめ めと して生める子は、 大年 おほとしの 。次に 宇迦之御魂 うかのみたまの 神。(二柱)

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

兄八島士奴美神、娶大山津見神之女、名木花知流比売、生子、布波能母遅久奴須奴神。此神、娶淤迦美神之女、名日河比売、生子、深淵之水夜礼花神。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

あに 八島士奴美神、大山津見神の女、名は 木花知流比売 このはなのちるひめ めと して生める子は、 布波能母遅久奴須奴 ふはのもぢくぬすぬの 神。この神、 淤迦美 おかみの 神の女、名は 日河比売 ひかはひめ めと して生める子は、 深淵之水夜礼花 ふかぶちのみづやれはなの 神。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

此神、娶天之都度閉知泥神、生子、淤美豆奴神。此神、娶布怒豆怒神之女、名布帝耳神、生子、天之冬衣神。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

この神、 天之都度閉知泥 あめのつどへちねの 神を娶して生める子は、 淤美豆奴 おみづぬの 神。この神、 布怒豆怒 ふのづのの 神の女、名は 布帝耳 ふてみみの 神を娶して生める子は、 天之冬衣 あめのふゆきぬの 神。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

此神、娶刺国大神之女、名刺国若比売、生子、大国主神。亦名謂大穴牟遅神、亦名謂葦原色許男神、亦名謂八千矛神、亦名謂宇都志国玉神、并有五名。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

この神、 刺国大 さしくにおほの 神の女、名は 刺国若比売 さしくにわかひめ を娶して生める子は、大国主神。亦の名は 大穴牟遅 おほなむぢの 神と謂ひ、亦の名は 葦原色許男 あしはらしこをの 神と謂ひ、亦の名は 八千矛 やちほこの 神と謂ひ、亦の名は 宇都志国玉 うつしくにだまの 神と謂ひ、 あは せて五つの名あり。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、此大国主神之兄弟、八十神坐。然皆国者、避於大国主神。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

かれ 、この大国主神の 兄弟 あにおと 八十 やそ しき。然れども皆国は大国主神に りき

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

所以避者、其八十神、各有欲婚稲羽之八上比売之心、共行稲羽時、於大穴牟遅神負袋、為従者率往。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

りし 所以 ゆゑ は、その八十神、 おのおの 稲羽 いなば 八上比売 やがみひめ よば はむ心ありて、共に稲羽に行きし時、 大穴牟遅 おほなむぢの 神に ふくろ おほ せ、 従者 ともびと として て往きき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

於是到気多之前時、裸兎伏也。爾八十神謂其兎云、汝将為者、浴此海塩、当風吹而、伏高山尾上。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここに 気多 けた さき に到りし時、 あかはだ うさぎ せりき。ここに八十神、その兎に謂ひしく、「 なれ むは、この 海塩 うしほ み、風の吹くに当たりて、高山の尾の に伏せれ」といひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、其兎従八十神之教而伏。爾其塩随乾、其身皮悉風見吹拆。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

かれ 、この兎、八十神の教へに従ひて伏しき。ここにその塩 かは まにま に、その身の皮 ことごと に風に吹き かえき

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、痛苦泣伏者、最後之来大穴牟遅神、見其兎言、何由汝泣伏。兎答言、僕在淤岐島、雖欲度此地、無度因。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

かれ 、痛み苦しみて泣き伏せれば、 最後 いやはて に来たりし大穴牟遅神その兎を見て、「 何由 なにしか は泣き伏せる」と言ひしに、兎答へ まを ししく、「 われ 淤岐 おき の島にありて、この ところ わた らむとすれども、度らむ よし 無かりき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、欺海和迩言、吾与汝競、欲計族之多少。故、汝者随其族在悉率来、自此島至于気多前、皆列伏度。爾吾踏其上、走乍読度。於是知与吾族孰多。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

かれ 、海の わに あざむ きて言ひしく、『 くら べて、 うがら の多き少なきを かぞ へてむ。 かれ はその うがら のありの まにま に、悉に て来て、この島より 気多 けた さき まで、皆 み伏し わた れ。ここに あれ その上を踏みて、走りつつ読み度らむ。ここに うがら いづ れか多きを知らむ』といひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

如此言者、見欺而列伏之時、吾踏其上、読度来、今将下地時、吾云、汝者我見欺言竟、即伏最端和迩、捕我悉剥我衣服。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

かく言ひしかば、欺かえて み伏せりし時、 あれ その上を踏みて、読み度り来て、今 つち りむとせし時、 あれ 云ひしく、『 は我に欺かえつ』と言ひ はる即ち、 最端 いやはし に伏せりし わに を捕へて悉に我が 衣服 きもの ぎき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

因此泣患者、先行八十神之命以、誨告浴海塩、当風伏。故、為如教者、我身悉傷。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

これによりて泣き うれ ひしかば、 さき に行きし八十神の みこと もちて、『 海塩 うしほ を浴み、風に当たりて伏せれ』と をし りき。 かれ 、教への如くせしかば、我が身悉に そこな はえつ」とまをしき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

於是大穴牟遅神、教告其兎、今急往此水門、以水洗汝身、即取其水門之蒲黄、敷散而、輾転其上者、汝身如本膚必差。故、為如教、其身如本也。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここに大穴牟遅神、その兎に教へ告りたまひしく、「今 すみや かにこの 水門 みなと に往き、水をもちて が身を洗ひて、すなはちその水門の 蒲黄 かまのはな を取りて、敷き散らして、その上に 輾転 こいまろ べば、汝が身 もと はだ ごと 、必ず えむ」とのりたまひき。故、教への ごと せしに、その身 もと の如くになりき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

此稲羽之素兎者也。於今者謂兎神也。故、其兎白大穴牟遅神、此八十神者、必不得八上比売。雖負袋、汝命獲之。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

これ稲羽の 素兎 しろうさぎ なり。今に兎神と謂ふ。故、その兎、大穴牟遅神に白ししく、「八十神は、必ず八上比売を得じ。 ふくろ を負へども、 汝命 いましみこと たまはむ」とまをしき。

用語解説

安万侶

安万侶

いきなり神様の名前がいっぱい。

天武天皇

天武天皇

スサノオの系譜は、名前の意味がわからない神が多いな。

天武天皇

天武天皇

そんな中でも穀物神とされているのが、大年おおとし宇迦之御魂うかのみたま
大年は正月に家にやって来る神で、正月飾りもこの神のためのものとされている。
宇迦之御魂は、お稲荷さんといったほうが通りがいいかもな。

天武天皇

天武天皇

木花知流比売このはなのちるひめは、後々出てくるコノハナサクヤヒメと名前が対になっていると考えると面白いかもね。
それから淤美豆奴おみづぬは、出雲国風土記の国引き神話の八束水臣津野命やつかみずおみつののみことと同じ神じゃないかといわれていたり。

安万侶

安万侶

大国主神は別名がたくさんあるんですね。

天武天皇

天武天皇

国の主っていうくらいだから、支配者ってことだろうな。
大穴牟遅おおなむぢの意味ははっきりしないんだが、たくさんの穴を持つ者とも読める。穴が鉱山に掘った坑だとすると、すげー金持ちってことになるな。
葦原色許男あしはらしこおの葦原は地上のこと。『しこ』は『醜』で、醜いという意味以外に強いという意味もあるから、地上の強い男ってことだろうね。
八千矛やちほこはたくさんの矛って意味だけど、別の意味にも取れるんだ。
宇都志国玉うつしくにだまは、この世の国の霊魂ってとこかな。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

大勢の神ってこと。オオクニヌシにはたくさん兄弟がいたわけだ。

安万侶

安万侶

りきって??

天武天皇

天武天皇

身を引いて譲ったってこと。

安万侶

安万侶

稲羽いなばは因幡のこと??

天武天皇

天武天皇

そ。現在の鳥取県にあたる。

天武天皇

天武天皇

八上比売やがみひめの八上も地名。かつて八上郡があったんだけど、今は鳥取市河原町曳田あたりだな。

安万侶

安万侶

ふくろってあの絵本でもオオクニヌシ様が背負ってるアレ??

天武天皇

天武天皇

そうそう、アレな。末っ子だから、兄たちの旅行荷物を担がされてたのね。

天武天皇

天武天皇

これも地名。鳥取市気高町けたかちょうか、あるいは同市白兎はくとの気多岬か、場所ははっきりしないんだ。気多岬の近くには白兎海岸や白兎神社があるぞ。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

丸はだかと取ってもいいけど、ここは皮がむけて赤くなった肌のこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

海水だな。

安万侶

安万侶

かえきって??

天武天皇

天武天皇

割れたってこと。皮膚にヒビが入ったと言い換えてもいいな。

安万侶

安万侶

淤岐おきの島も地名??

天武天皇

天武天皇

そう。島根県の隠岐の島という説と、白兎海岸の沖にある小島という説があるよ。

安万侶

安万侶

わにってあの爬虫類のワニ??

天武天皇

天武天皇

いや、サメのことよ。山陰地方の方言でサメを「ワニ」と呼ぶんだ。

安万侶

安万侶

読み度らむって??

天武天皇

天武天皇

数えて渡ろうって意味。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

蒲はガマ科の多年草で、黄はその色から花粉のこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

寝転がればってこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

白ウサギとも解釈できるけど、ここは元通りのウサギってことだろうな。

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監修:春比等 Site:いまどき風土記
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