古事記の原文『崇神天皇』

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『崇神天皇』の原文

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原文の概要

天武天皇

天武天皇

崇神すじん天皇の時代、疫病が流行する。神託で原因がオオモノヌシの祟りとわかる。オオモノヌシの子孫オオタタネコにオオモノヌシを祀らせるなどすると、国が平安になる。オオタタネコが神の子孫だということは、イクタマヨリビメの所へ通ってきた男が、オオモノヌシだとわかったことから知る。

安万侶

安万侶

疫病の流行って、他人事とは思えませんね ・ ・ ・

天武天皇

天武天皇

ちょっと前までは、遠い歴史の出来事だったのにな。

天武天皇

天武天皇

今こそ読むべき話かもしれない。

原文&読み下し文

崇神天皇

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

御真木入日子印恵命、坐師木水垣宮、治天下也。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

御真木入日子印恵 みまきいりひこいにゑの 命、 師木 しき 水垣 みづがきの に坐しまして、天の下治らしめしき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

此天皇、娶木国造、名荒河刀弁之女、遠津年魚目目微比売、生御子、豊木入日子命。次豊鉏入日売命。(二柱)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

この天皇、 木国造 きのくにのみやつこ 、名は 荒河刀弁 あらかはとべ の女、 遠津年魚目目微比売 とほつあゆめまくはしひめ を娶して、生みませる御子、 豊木入日子 とよきいりひこの 命。次に 豊鉏入日売 とよすきいりひめの 命。(二柱)

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

又娶尾張連之祖、意富阿麻比売、生御子、大入杵命。次八坂之入日子命。次沼名木之入日売命。次十市之入日売命。(四柱)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

また尾張連の おや 意富阿麻 おほあま 比売を娶して、生みませる御子、 大入杵 おほいりきの 命。次に 八坂 やさか 入日子 いりひこの 命。次に 沼名木 ぬなき の入日売命。次に 十市 とをち の入日売命。(四柱)

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

又娶大毘古命之女、御真津比売命、生御子、伊玖米入日子伊沙知命。次伊邪能真若命。次国片比売命。次千千都久和比売命。次伊賀比売命。次倭日子命。(六柱)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

また大毘古命の女、 御真津 みまつ 比売命を娶して、生みませる御子、 伊玖米入日子伊沙知 いくめいりびこいさちの 。次に 伊邪能真若 いざのまわかの 命。次に 国片 くにかた 比売命。次に 千千都久和 ちちつくわ 比売命。次に 伊賀 いが 比売命。次に やまと 日子命。(六柱)

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

此天皇之御子等、并十二柱。(男王七、女王五也。)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

この天皇の 御子等 みこたち 、并せて 十二柱 とをまりふたはしら なり。(男王七、女王五なり。)

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、伊久米伊理毘古伊佐知命、治天下也。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

故、 伊久米伊理毘古伊佐知 いくめいりびこいさちの 命は、天の下治らしめしき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

次豊木入日子命者、(上毛野、下毛野君等之祖也。)妹豊鉏比売命者、(拝祭伊勢大神之宮也。)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

次に豊木入日子命は、(上つ毛野、下つ毛野君の祖なり。) いも 豊鉏入比売命は、(伊勢の大神の宮を拝き祭りたまひき。)

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

次大入杵命者、(能登臣之祖也。)次倭日子命。(此王之時、始而於陵立人垣。)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

次に大入杵命は、(能登臣の祖なり。)次に倭日子命。(この王の時、始めて陵に人垣を立てき。)

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

此天皇之御世、役病多起、人民死為尽。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

この天皇の 御世 みよ に、 役病 えやみ さは に起こりて、 人民 たみ 死にて きむとしき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

爾天皇愁歎而、坐神床之夜、大物主大神、顕於御夢曰、是者我之御心。故、以意富多多泥古而、令祭我御前者、神気不起、国安平。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここに天皇 うれ なげ きたまひて 神床 かむどこ しし夜、 大物主 おほものぬしの 大神、 御夢 みゆめ あら はれて りたまひしく、「こは我が御心ぞ。故、 意富多多泥古 おほたたねこ をもちて、我が 御前 みまへ を祭らしめたまはば、神の 起こらず、国安らかに平らぎなむ」とのりたまひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

是以駅使班于四方、求謂意富多多泥古人之時、於河内之美努村、見得其人貢進。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここをもちて 駅使 はゆまづかひ 四方 よも あか ちて、意富多多泥古と謂ふ人を求めたまひし時、 河内 かふち 美努 みのの にその人を 見得 みえ 貢進 たてまつ りき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

爾天皇問賜之汝者誰子也、答曰、僕者大物主大神、娶陶津耳命之女、活玉依毘売、生子、

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここに天皇、「 が子ぞ」と問ひたまへば、答へて まを ししく、「 は大物主大神、 陶津耳 すゑつみみの 命の女、 活玉依毘売 いくたまよりびめ を娶して生める子、

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

名櫛御方命之子、飯肩巣見命之子、建甕槌命之子、僕意富多多泥古白。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

名は 櫛御方 くしみかたの 命の子、 飯肩巣見 いひかたすみの 命の子、 建甕槌 たけみかづちの の子、 あれ 意富多多泥古ぞ」と白しき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

於是天皇大歓以詔之、天下平、人民栄、即以意富多多泥古命、為神主而、於御諸山拝祭意富美和之大神前。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここに天皇 いた よろこ びて詔りたまひしく、「天の下平らぎ、 人民 たみ 栄えなむ」とのりたまひて、すなはち意富多多泥古命をもちて 神主 かむぬし として、 御諸 みもろ 山に 意富美和 おほみわ の大神の前に いつ き祭りたまひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

又仰伊迦賀色許男命、作天之八十毘羅訶、定奉天神地祇之社。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

また伊迦賀色許男命に おふ せて、 あめ 八十平瓮 やそびらか を作り、 天神 あまつかみ 地祇 くにつかみ やしろ を定め まつ りたまひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

又於宇陀墨坂神、祭赤色楯矛、又於大坂神、祭黒色楯矛、又於坂之御尾神及河瀬神、悉無遺忘以奉幣帛也。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

また 宇陀 うだ 墨坂 すみさかの に赤色の 楯矛 たてほこ を祭り、また大坂神 くろ 色の楯矛を祭り、また坂の御尾の神また河の瀬の神に、悉に のこ し忘るること無く 幣帛 みてぐら を奉りたまひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

因此而役気悉息、国家安平也。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

これによりて えやみ 悉に みて、 国家 あめのした 安らかに平らぎき。

line

オオモノヌシ

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

此謂意富多多泥古人、所以知神子者、上所云活玉依毘売、其容姿端正。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

この意富多多泥古と謂ふ人を、神の子と知れる 所以 ゆゑ は、 かみ に云へる活玉依毘売、その 容姿 かたち 端正 うるは しくありき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

於是有壮夫、其形姿威儀、於時無比、夜半之時、倏忽到来。故、相感、共婚共住之間、未経幾時、其美人妊身。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここに 壮夫 をとこ ありて、その 形姿 すがた 威儀 よそほひ とき たぐひ 無きが、 夜半 よなか の時に 倏忽 たちまち 到来 つ。故、 相感 あひめ でて 共婚 まぐは ひして 共住 すめ る間に、未だ 幾時 いくだ もあらねば、その 美人 をとめ 妊身 はら みぬ。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

爾父母怪其妊身之事、問其女曰、汝者自妊。無夫何由妊身乎、答曰、有麗美壮夫、不知其姓名、毎夕到来、共住之間、自然懐妊。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここに 父母 ちちはは その 妊身 はら みし事を あや しみて、その むすめ に問ひて ひけらく、「 おのづか はら みぬ。 きに 何由 いかに 妊身 はら める」といへば、答へて曰ひけらく、「 麗美 うるは しき 壮夫 をとこ ありて、その 姓名 かばねな も知らぬが、 夕毎 よひごと 到来 共住 める間に、 自然 おのづから 懐妊 はら みぬ」といひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

是以其父母、欲知其人、誨其女曰、以赤土散床前、以閉蘇紡麻貫針、刺其衣襴。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここをもちてその父母、その人を知らむと おも ひて、その女に おし へて曰ひけらく、「 赤土 はに を床の前に散らし、 巻子 へそ 紡麻 を針に きて、その きぬ すそ せ」といひき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、如教而旦時見者、所著針麻者、自戸之鉤穴控通而出、唯遺麻者三勾耳。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

故、教への如くして 旦時 あした に見れば、針著けし は、戸の 鉤穴 かぎあな より とほ りて出でて、ただ のこ れる 三勾 みわ のみなりき。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

爾即知自鉤穴出之状而、従糸尋行者、至美和山而留神社。故、知其神子。

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

ここにすなはち鉤穴より出でし さま を知りて、糸の まにま に尋ね行けば、 美和 みわ 山に至りて神の社に とど まりき。故、その神の子とは知りぬ。

【原文】稗田阿礼

【原文】稗田阿礼

故、因其麻之三勾遺而、名其地謂美和也。(此意富多多泥古命者、神君、鴨君之祖。)

【読み下し文】藤原不比等

【読み下し文】藤原不比等

故、その 三勾 みわ のこ りしによりて、 其地 そこ を名づけて 美和 みわ と謂ふなり。(この意富多多泥古命は、神君、鴨君の祖。)

崇神天皇

用語解説

天武天皇

天武天皇

奈良県桜井市金屋にある志貴御県坐神社しきのみあがたにますじんじゃが伝承地とされているな。

天武天皇

天武天皇

第11代天皇で、諡は垂仁すいにん

天武天皇

天武天皇

微妙に字が違うけど、伊久米伊理毘古伊佐知いくめいりびこいさちの命も同じ人物な。

安万侶

安万侶

伊勢の大神の宮って伊勢神宮のこと??

天武天皇

天武天皇

そうそう。

天武天皇

天武天皇

伊勢神宮の祭神に仕える未婚の皇族女性のことを斎宮さいくうといってな、そのはじまりが豊鉏入比売命というわけ。

天武天皇

天武天皇

詳しいいきさつは日本書紀に書いてあるが、古事記から逸れちまうから割愛するな。

安万侶

安万侶

はーい。

天武天皇

天武天皇

斎宮は「いつきのみや」ともいって、天皇の代替わりごとに選ぶんだけど、ちゃんと制度として確立したのはこのオレさ。

天武天皇

天武天皇

その時は娘の大来おおくを伊勢に向かわせたのよ。

安万侶

安万侶

人垣は??

天武天皇

天武天皇

お墓の周囲に垣根のように立て並べた人のこと。

安万侶

安万侶

んん? どういうことですか?

天武天皇

天武天皇

そばに仕えていた人たちは、死んだ人の後を追わされたわけよ。

天武天皇

天武天皇

生きたまま半分埋められて、なかなか死ねないから昼も夜も泣きわめくし、

安万侶

安万侶

・ ・ ・

天武天皇

天武天皇

死んだら死んだで腐っていくし、犬やらカラスやらが集まってきてソレを食い漁るし ・ ・ ・

安万侶

安万侶

ひぃ~~~!

天武天皇

天武天皇

おっと、脅かしすぎたかな。

天武天皇

天武天皇

古い風習には残酷なものもあるってこった。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

流行病のこと。

天武天皇

天武天皇

疫病えきびょうといったりもするな。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

夢で神の意志を知るための清めた寝床のこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

神の祟りのこと。

天武天皇

天武天皇

には病気って意味もあるんだわ。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

急ぎの使者のこと。

天武天皇

天武天皇

『はゆま』は早馬はやうまを縮めた形だな。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

あちこちのこと。

安万侶

安万侶

あかちてって??

天武天皇

天武天皇

別々にしてとか散らしてってこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

現在の大阪府八尾市上之島町南あたりかな。

安万侶

安万侶

建甕槌たけみかづちのって国譲り神話で活躍したあの ・ ・ ・ !?

天武天皇

天武天皇

いや、名前の読みは同じだが、別の神とされているな。

天武天皇

天武天皇

オオモノヌシのこと。

天武天皇

天武天皇

奈良県桜井市の、御諸山こと三輪山の麓にある大神神社おおみわじんじゃの祭神だな。

天武天皇

天武天皇

たくさんの平たい土器のこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

奈良県宇陀市榛原萩原にある墨坂神社の祭神のこと。

安万侶

安万侶

大坂神は??

天武天皇

天武天皇

大坂は現在の奈良県香芝市逢坂あたりかな。

天武天皇

天武天皇

すぐ隣の地区の穴虫にある大坂山口神社に、かつて祀られていた神のことだろうな。

安万侶

安万侶

えっ、今は違うんですか?

天武天皇

天武天皇

ああ、現在の祭神はオオヤマツミ・スサノオ・アメノコヤネ。

天武天皇

天武天皇

墨坂も大坂も交通の重要な地点だから、そこで災いや病気が入ってくるのを防ごうとしたのかもね。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

急にとか突然にってこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

愛し合ってってこと。

天武天皇

天武天皇

まだどれほどの時間も経っていないのにってこと。

天武天皇

天武天皇

巻子は糸を玉のように巻いたもののことで、紡麻は麻で作った糸のことだから、糸巻きに巻いた麻糸ってこと。

安万侶

安万侶

天武天皇

天武天皇

三巻きのこと。

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監修:春比等 Site:いまどき風土記
イラスト:駒碧 Site:わたり雪

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