古事記の原文『黄泉比良坂』
『黄泉比良坂』の原文
古事記の原文をそのまま載せても眠くなってしまうので、天武天皇の時代の人たちのセリフと合わせてお届けしています。
原文を記載するにあたってのルールについては、プロローグ内『原文掲載のルール』をご確認ください。
原文の概要
天武天皇
恥をかかされたイザナミは、逃げるイザナギに追っ手を差し向ける。辛くも逃げ切ったイザナギは、巨石を挟んでイザナミに別れを告げる。
安万侶
イザナギとイザナミ、お別れしちゃうんだ ・ ・ ・
天武天皇
死んだ人の後は追っちゃダメってことだ。どんなに会いたくなってもな。
安万侶
・ ・ ・ ・ 陛下、何かあったんですか?
天武天皇
ん? ・ ・ ・ 秘密♡
安万侶
むぅ。
原文&読み下し文
【原文】稗田阿礼
即遣予母都志許売令追。
【原文】稗田阿礼
爾伊邪那岐命、取黒御縵投棄、乃生蒲子。
【原文】稗田阿礼
是拓食之間、逃行、猶追、亦刺其右御美豆良之湯津津間櫛引闕而投棄、乃生筍。是抜食之間、逃行。
【読み下し文】藤原不比等
【原文】稗田阿礼
且後者、於其八雷神、副千五百之黄泉軍令追。
【原文】稗田阿礼
爾抜所御佩之十拳剣而、於後手布伎都都逃来、猶追、到黄泉比良坂之坂本時、取在其坂本桃子三箇待撃者、悉逃返也。
【読み下し文】藤原不比等
【原文】稗田阿礼
爾伊邪那岐命、告其桃子、汝如助吾、於葦原中国所有、宇都志伎青人草之、落苦瀬而患惚時、可助告、賜名号意富加牟豆美命。
【読み下し文】藤原不比等
【原文】稗田阿礼
最後其妹伊邪那美命、身自追来焉。
【読み下し文】藤原不比等
【原文】稗田阿礼
爾千引石引塞其黄泉比良坂、其石置中、各対立而、度事戸之時、伊邪那美命言、愛我那勢命、為如此者、汝国之人草、一日絞殺千頭。
【読み下し文】藤原不比等
【原文】稗田阿礼
爾伊邪那岐命詔、愛我那迩妹命、汝為然者、吾一日立千五百産屋。
【原文】稗田阿礼
是以一日必千人死、一日必千五百人生也。
【読み下し文】藤原不比等
ここをもちて
【原文】稗田阿礼
故、号伊邪那美命謂黄泉津大神。亦云、以其追斯伎斯而、号道敷大神。
【原文】稗田阿礼
亦所塞其黄泉坂之石者、号道反之大神、亦謂塞坐黄泉戸大神。
【読み下し文】藤原不比等
またその
【原文】稗田阿礼
故、其所謂黄泉比良坂者、今謂出雲国之伊賦夜坂也。
用語解説
安万侶
やっと出てこれた ・ ・ ・ ・ ・
天武天皇
安万侶、痛いってば。腕がもげる。
安万侶
はっ!!ごめんなさい。
稗田阿礼
幼気な子供を脅かすなんて、意外と大人気ないんだな。不比等。
藤原不比等
は?俺は読み上げをしたまでだ。
天武天皇
安万侶、何か質問ある?
天武天皇
黄泉の国の醜い女って意味。
天武天皇
容姿の説明は無いが、要はゾンビかな??
安万侶
ふぁっ!!!
稗田阿礼
天武もやめろっての!
天武天皇
はいはい。
天武天皇
「かづら」はここからもたくさん出てくる。「つる植物」の総称だ。ここでは、黒いつる植物の髪飾りって意味だな。
天武天皇
ブドウの古名だ。イザナギは、山ブドウか、野ブドウのつるを巻いていて、そこから実が成ったんだろう。
天武天皇
「えび」「かずら」だから、エビヅルかもかな。これも、同じくブドウみたいな実がなる。
天武天皇
さっきは左の櫛を折っていたから、今度は右の櫛を折って投げたんだな。
安万侶
両サイドのミヅラに櫛を付けるなんて、おしゃれさんですねっ!!
天武天皇
はっ!そうだな。
安万侶
むー。
天武天皇
昔は、ミヅラに色々な髪飾りをつけることで、魔除けをしていたそうだよ ・ ・ ・
安万侶
絶対、可愛いのに。
天武天皇
タケノコのこと。
天武天皇
エビカズラの髪飾りはブドウに、櫛の爪はタケノコに、それぞれなったわけだ。
流れからして、竹の櫛だったかもな。
安万侶
あっ、両方とも成長するとなるやつ!
天武天皇
そう。形も似ていることから、「類似呪術」の説もあるけど。
天武天皇
どの道この辺は、すげーファンタジーな部分だ。
天武天皇
ははっ。「黄泉の国の兵士」って意味だから、無双でやっつけるにはもってこいのキャラだな。
天武天皇
んー。必殺技にしては地味だけど、後ろ手で振りながら戦っているんだ。
安万侶
む?戦いづらそう。
天武天皇
後ろ手で何かするのは、相手を呪う意味があるんだ。山佐知毘古の神話でも使っているから、その時になったらまた説明するよ。
天武天皇
黄泉の国とこの世との境界にあるという坂のこと。
天武天皇
桃は神聖な果実で、邪気を払うといわれているんだ。ここにも中国の思想の影響がみられるな。
天武天皇
ことごとく。全部って意味。
天武天皇
天界と冥界の中間にある、葦原が広がる国。つまり、オレらが住んでいる「この世界」のこと。
天武天皇
ちなみに「国」って言うと、現代では、日本とか中国とかアメリカとかの大カテゴリーだけど、当時は「地域」「エリア」くらいの意味だから、混乱しないようにな。
安万侶
はーい。
天武天皇
「うつしき」は「現実の」。「青人草」は「人間」のこと。現実世界を生きている、この世の人々ってことだな。
安万侶
む?なぜ、人間が青人草??
天武天皇
さあな。人の最初が
天武天皇
千人でかからないと引けないくらい大きな石ということ。
安万侶
わ!力持ち!!
天武天皇
な。この辺も、かなりファンタジーだ。
天武天皇
離別を言い渡すってこと。
安万侶
・ ・ ・ イザナギとイザナミ、離婚しちゃったんですか?
天武天皇
んー。どうだろう。オレらの時代はまだ離婚の概念が曖昧だし、そもそも死別だからな。ニュアンスが難しい。
天武天皇
例え、愛し合って夫婦になったとしても、いつかは別れなければならない日が、必ず来るからさ。
天武天皇
・ ・ ・ ・ でも、死別と離婚では意味合いも違うだろ?
安万侶
むぅ。
天武天皇
オレなんかは、こうして死者のイザナミから別れを告げるあたり、とても深い愛を感じてしまうが ・ ・ ・ ・ 真意はわからない。
天武天皇
いずれにしろ「別れた」って意味だな。
安万侶
しょぼん。
天武天皇
ああ、このシーン良いよな。別れの言葉の前に「愛し」をつけるなんてさ。
安万侶
この意味って、
天武天皇
そうだな。「美しい」って意味もあるけど、「愛しい」の方が自然だろう。
天武天皇
説明いる?
安万侶
・ ・ ・ いえ、やっぱりいいです。
藤原不比等
一日千人分の首を絞って殺すって意味だ。
安万侶
んぎゃあっ!!!
藤原不比等
ちなみに、「
天武天皇
愛しさ余って恨み1000倍ってやつだな。
安万侶
なんか違うっっ!!!!
天武天皇
お産のために建てる小屋のこと。出産には大量の出血を伴うから、穢れを祓うために出産用の小屋を建てていたんだ。
天武天皇
意外かもしれないが、昭和初期まで産屋の文化は残っていたそうだよ。
天武天皇
現代で出産を「穢れ」なんて言ったら叩かれそうだけど ・ ・ ・ 昔は今ほど衛生状態も良くなかったからな。その辺は察して?
安万侶
むーん。
天武天皇
ま、ここでは、子供を生むって意味な。
安万侶
でも、一日に千人死んで、千五百人生まれたら、どんどん増えちゃいますね。
天武天皇
そうだな。この神話は、人の生と死の起源を語っているんだ。
天武天皇
一見、悲しい話にも見えるが、生と死の人数の割合から、人々の繁栄を願っているんだろう。
安万侶
ふーん。
天武天皇
追いついたってこと。
天武天皇
んー。さあな。でも、候補地はいくつかあるよ。
天武天皇
天武天皇
近くには、イザナミを祀った揖屋神社もある。
安万侶
ふーん。
天武天皇
あとは、出雲市猪目町の猪目洞窟。ここには、「磯の西にある洞窟の中に人が入れない穴があって、ここに来る夢を見た人は死んでしまう」なんて言い伝えも残っている。
天武天皇
地元では、「揖屋」がイザナギが通った黄泉比良坂で、「猪目洞窟」がオオナムチっていう、後で出てくる神が通った黄泉比良坂だ、と言われているそうだ。
天武天皇
それと、島根県出雲市奥宇賀町にも
安万侶
ふふっ。陛下、出雲情報詳しすぎません??
天武天皇
ん?
天武天皇
ああ、ごめん。オレ、好きなんだ。出雲神話。
安万侶
ふーん。
藤原不比等
・ ・ ・ ・ くだらない。
天武天皇
不比等くんは夢がないねぇ。
藤原不比等
あんなん、ただの童話でしょうが。
天武天皇
そう?
藤原不比等
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
天武天皇
じゃ、続き行こうか。
安万侶
あ、はーい!