古事記の原文『イザナギの禊』

『イザナギの禊』の原文

ラノベ訳・三貴神の誕生（１）

古事記の原文をそのまま載せても眠くなってしまうので、天武天皇の時代の人たちのセリフと合わせてお届けしています。

原文を記載するにあたってのルールについては、プロローグ内『原文掲載のルール』をご確認ください。

原文の概要

天武天皇

地上へと戻ったイザナギが身を清めると、次々と神が生まれてくる。

安万侶

ぎゃ！また神様がいっぱい出てくるやつ！！！

天武天皇

ま、ここもマニアックな箇所だからな。興味がなければスルーしてOKだ。

安万侶

はーい。

原文＆読み下し文

アマテラス、ツクヨミ、スサノオ

【原文】稗田阿礼

是以伊邪那伎大神詔、吾者到於伊那志許米志許米岐穢国而在邪理。故、吾者為御身之禊而、到坐竺紫日向之橘小門之阿波岐原而、禊祓也。

【読み下し文】藤原不比等

ここをもちて伊邪那伎大神詔（の）りたまひしく、「吾（あ）はいなしこめしこめき穢（きたな）き国に到りてありけり。故（かれ）、吾（あ）は御身（みみ）の禊（みそぎ）為（せ）む」とのりたまひて、竺紫（つくし）の日向（ひむか）の橘（たちばな）の小門（をど）の阿波岐（あはき）原に到りまして、禊（みそ）ぎ祓（はら）ひたまひき。

【原文】稗田阿礼

故、於投棄御杖所成神名、衝立船戸神。次於投棄御帯所成神名、道之長乳歯神。

【読み下し文】藤原不比等

故（かれ）、投げ棄（う）つる御杖（みつゑ）に成れる神の名は、衝立船戸（つきたつふなどの）神。次に投げ棄（う）つる御帯（みおび）に成れる神の名は、道之長乳歯（みちのながちはの）神。

【原文】稗田阿礼

次於投棄御嚢所成神名、時量師神。次於投棄御衣所成神名、和豆良比能宇斯能神。

【読み下し文】藤原不比等

次に投げ棄つる御嚢（みふくろ）に成れる神の名は、時量師（ときはかしの）神。次に投げ棄つる御衣（みけし）に成れる神の名は、和豆良比能宇斯能（わづらひのうしの）神。

【原文】稗田阿礼

次於投棄御褌所成神名、道俣神。次於投棄御冠所成神名、飽咋之宇斯能神。

【読み下し文】藤原不比等

次に投げ棄つる御褌（みはかま）に成れる神の名は、道俣（ちまたの）神。次に投げ棄つる御冠（みかがふり）に成れる神の名は、飽咋之宇斯能（あきぐひのうしの）神。

【原文】稗田阿礼

次於投棄左御手之手纏所成神名、奥疎神。次奥津那芸佐毘古神。次奥津甲斐弁羅神。

【読み下し文】藤原不比等

次に投げ棄つる左の御手（みて）の手纏（たまき）に成れる神の名は、奥疎（おきざかるの）神。次に奥津那芸佐毘古（おきつなぎさびこの）神。次に奥津甲斐弁羅（おきつかひべらの）神。

【原文】稗田阿礼

次於投棄右御手之手纏所成神名、辺疎神。次辺津那芸佐毘古神。次辺津甲斐弁羅神。

【読み下し文】藤原不比等

次に投げ棄つる右の御手の手纏に成れる神の名は、辺疎（へざかるの）神。次に辺津那芸佐毘古（へつなぎさびこの）神。次に辺津甲斐弁羅（へつかひべらの）神。

【原文】稗田阿礼

右件自船戸神以下、辺津甲斐弁羅神以前、十二神者、因脱著身之物、所生神也。

【読み下し文】藤原不比等

右の件（くだり）の船戸（ふなどの）神以下（よりしも）、辺津甲斐弁羅（へつかひべらの）神以前（よりさき）の十二神（とをまりふたはしら）は、身に著（つ）ける物を脱（ぬ）くによりて生（な）れる神なり。

【原文】稗田阿礼

於是詔之、上瀬者瀬速。下瀬者瀬弱而、初於中瀬堕迦豆伎而滌時、所成坐神名、八十禍津日神。次大禍津日神。

【読み下し文】藤原不比等

ここに詔りたまひしく、「上（かみ）つ瀬（せ）は瀬（せ）速（はや）し。下（しも）つ瀬は瀬弱し」とのりたまひて、初めて中つ瀬に堕（お）り潜（かづ）きて滌（すす）ぎたまふ時、成りませる神の名は、八十禍津日（やそまがつひの）神。次に大禍津日（おほまがつひの）神。

【原文】稗田阿礼

此二神者、所到其穢繁国之時、因汚垢而成神之者也。

【読み下し文】藤原不比等

この二神（ふたはしら）は、その穢繁国（けがらはしきくに）に到りし時の汚垢（けがれ）によりて成れる神なり。

【原文】稗田阿礼

次為直其禍而所成神名、神直毘神。次大直毘神。次伊豆能売神。

【読み下し文】藤原不比等

次にその禍（まが）を直（なほ）さむとして、成れる神の名は、神直毘（かむなほびの）神。次に大直毘（おほなほびの）神。次に伊豆能売（いづのめの）神。

【原文】稗田阿礼

次於水底滌時、所成神名、底津綿津見神。次底筒之男命。

【読み下し文】藤原不比等

次に水の底に滌（すす）ぐ時に、成れる神の名は、底津綿津見（そこつわたつみの）神。次に底筒之男（そこつつのをの）命。

【原文】稗田阿礼

於中滌時、所成神名、中津綿津見神。次中筒之男命。

【読み下し文】藤原不比等

中に滌（すす）ぐ時に、成れる神の名は、中津綿津見神。次に中筒之男命。

【原文】稗田阿礼

於水上滌時、所成神名、上津綿津見神。次上筒之男命。

【読み下し文】藤原不比等

水の上に滌ぐ時に、成れる神の名は、上津（うはつ）綿津見神。次に上（うは）筒之男命。

【原文】稗田阿礼

此三柱綿津見神者、阿曇連等之祖神以伊都久神也。故、阿曇連等者、其綿津見神之子、宇都志日金拆命之子孫也。

【読み下し文】藤原不比等

この三柱の綿津見神は、阿曇連（あづみのむらじ）等（ら）の祖神（おやがみ）と以（も）ち拝（いつ）く神なり。故（かれ）、阿曇連等は、その綿津見神の子、宇都志日金拆（うつしひがなさくの）命の子孫（うみのこ）なり。

【原文】稗田阿礼

其底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命三柱神者、墨江之三前大神也。

【読み下し文】藤原不比等

その底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命の三柱の神は、墨江（すみのえ）の三前（みまへ）の大神なり。

『系図』イザナギ、イザナミ、三貴子：アマテラス、ツクヨミ、スサノオ

用語解説

安万侶

むぅぅ。。。また神様いっぱい出てきた。

天武天皇

そうねー。ここら辺も、1回しか出て来ない神がほとんどだから、基本的にはスルーしてOKだ。

安万侶

はーい。

天武天皇

そしたら、順を追って説明しようか。質問は？

安万侶

さっき、伊邪那伎『大神』ってあったけど、前まで伊邪那岐『命』じゃなかったでしたっけ？

天武天皇

あ、そうそう。これについても諸説はあるけど、神としてレベルアップしたと考えればいい。

安万侶

む？レベルアップ？神様なのに成長するの？？

藤原不比等

日本の神々は全知全能ではない。それどころか、アホばかりだ。成長してもらわなくては困る。

天武天皇

不比等くん、言い方。

藤原不比等

･･･イザナミと共にいた頃は2柱で神産みを行なっていたが、ここからは1柱で神を生んでいる。
ナキサハメノカミの例外はあるが、成長を認めればここから急に1柱で神を生めるようになったことにも納得がいく。

天武天皇

そうね。黄泉の国での試練を乗り越えて、神としての能力が上がったんだろう。イザナミもイザナギと別れた後の別名で「大神」と呼ばれているよ。

安万侶

なるー。

安万侶

じゃー、「いなしこめしこめき」は？？

天武天皇

見るのも嫌なほど汚いってことだな。

安万侶

えぇ！？イザナギ、自分でイザナミのこと迎えに行ったくせに、そんなこと言ったんですか！？

安万侶

なんかムカつく。

稗田阿礼

な。この発言は、ボクもどうかと思う。

天武天皇

こらこら。編纂者が悪口を言わないの。この人間臭さがイザナギの魅力でしょうが。

稗田阿礼

へーい。

安万侶

あと･･･禊（みそぎ）は？？

天武天皇

水で身を清める儀礼のこと。黄泉の国の穢れを祓おうとしているんだな。

天武天皇

ちなみに、神社を参拝するとき手水舎（ちょうずしゃ）で手と口を清めるだろ？あれは禊を簡略化した行為なんだ。

安万侶

へぇー。

安万侶

この、阿波岐（あわき）原は？どこかにあるんですか？？

天武天皇

候補地はいくつかある。

安万侶

ふーん。日向（ひむか）だったら、宮崎県とか？

天武天皇

そうね。宮崎県宮崎市阿波岐原町にある『みそぎ池』が有名だな。でも、福岡県福岡市西区の小戸（おど）神宮にも伝承が残っている。

安万侶

そうなんだ。

稗田阿礼

くくっ。ここからは、また大量の神様ゾーンだな。

安万侶

むぅぅぅ･･･イザナギが身に付けてた物からも、たくさん神様が生まれるんですね。もう、なんでもアリ。

天武天皇

おー。軽く説明してやるから頑張れー。

安万侶

ふぁーい。

天武天皇

『杖』から生まれた『ツキタツフナド』は穢れの侵入を防ぐ神。
『帯』から生まれた『ミチノナガチハ』は長い道を司る神。
『袋』から生まれた『トキハカシ』は解き放つ・解放の神。
『衣』から生まれた『ワヅラヒノウシ』は煩いの主。
『袴』から生まれた『チマタ』は分かれ道。
『冠』から生まれた『アキグヒノウシ』穢れを食う・払う神。

天武天皇

『左腕の装飾具』から生まれた『オキザカル・オキツナギサビコ・オキツカヒベラ』は、沖から遠ざかる・沖の渚・沖と渚の間という意味。
『奥』は『沖』、『辺』は『手もと』のことだから、
『右腕の装飾具』から生まれた『ヘザカル・ヘツナギサビコ・ヘツカヒベラ』は、手もとから遠ざかる・手もとの渚・手もと渚の間という意味だな。

安万侶

ふーん。なんか、黄泉比良坂からここまでの出来事とリンクしてる気がする。

稗田阿礼

あー。言われてみれば確かに。

天武天皇

そうね。ま、この辺もよく分からないところだから、自分で色々と仮説を立ててみるといい。